そうであってほしくない予測
「いなかった?いなかったって……城の中からいなくなっていたって事か!?」
「あぁ……先程部屋を訪れたが、影も形もなかった。警備の兵士や家宰、メイドたちに聞いてみても誰も見ていないそうだ。ほぼ間違いなく、弟は城内にはいないと言って良いだろう。」
「ちなみに弟様の従者のマークも時期を同じくして姿を消したそうですよ。」
譲歩するつもりのないラディウム公。
覚悟を決めたと言う彼の言葉。
行方を眩ませたユーステッドとマーク。
これらの情報から導き出される答えは?
「まさか……!いや、でも……」
「どうした?何か心当たりでもあるのか?」
「あくまでも推測の域を出ない、そうであってほしくない予測なら……」
その可能性を信じたくない。
しかし考慮せずにはいられない。
そんな思考が脳裏を過ってしまった。
アルステッドは俺の様子を見て尋ねるが、果たしてこれを言ってしまっていいのだろうか。
他ならぬユーステッドの兄である彼に。
「リョータ、教えてくれ。例え私が傷付きかねないものであったとしても。」
「アルステッド…………分かった。」
真剣な眼差しで俺を見やるアルステッド。
迷いながらも、彼に推測を伝える事を決め、俺はそれを口にする。
「ユーステッドは海賊たちの、元々この世界で生きてきた人々の側に立って戦うつもりなのかも知れない。ラディウム公と話しても解決しないのなら、力で現状を変えようとしているのかも知れない。この街の転生者たちがそうであったように……。」
「……!そう、か。ならば、止めなくてはなるまい!」
ユーステッドが決めた覚悟、それは戦う事ではないだろうか。
決定権を持つ人間と対話しても変えられないのであれば、血を流してでも現状を変えるために戦う事を。
俺の推測を聞いたアルステッドは眉間に皺をよせ、表情を険しくしながら決意を固める。
「だが、何故この兄に相談を……いや、父上の方針に唯々諾々と従い、現実を見ていなかったのだ。頼るに値せぬと思われても仕方がないか……。」
「いや、あくまでも推測だから、他の可能性もある訳だし……」
「励ましは無用だ。これまでの振舞いのツケが回ってきたと受け止めよう。」
沈痛な面持ちで自らの過ちを悔いるアルステッド。
父親を信じ、指針にする事を一概に間違っているとは言えない。
ただ今回は、色々な物事の巡り合わせが悪過ぎたのだ。
「止めると言ってもどうなさるので?戦うにしても兵士が不足しているうえ、若様の演説でこの街の民衆は一旦は鎮まりましたが、時が経てばまた火が着きますよ。」
「む、そ、それは…………」
ベックが冷静に現実的な意見を述べ、アルステッドは答えに窮する。
実際、こちらの状況は悪く、解決の策は見出せないでいるのだ。