互いが互いを思いやり、尊重してこそ
広場に響いた声の主、それは……
「アルステッド!それにベックも!」
「城の入口でグランマと会ってな。それでリョータたちが広場にいると聞いてここに来たのだ。もっとも、このような騒ぎが起きているとは聞いていなかったので面食らったがな。」
「ども。演説は聞かせてもらいましたよ。」
「アルステッド様だ……」
「アルステッド様が来たぞ……」
「オレたちを止めに来たのか……?」
「いや、逆かも知れねぇぜ……」
領主の息子である彼が現れて広場にどよめきが溢れる。
しかしそれも徐々に収まっていき、彼の発言の真意を問わんとする人々が声を上げた。
「アルステッド様よぉ、この兄ちゃんの言う通りってのはどういう事だよ?」
「そうだぜ、結局は罪を犯してる海賊の方が悪ぃだろ!」
「そうだそうだ!あたしたちゃ犯罪はやっちゃいないが、あいつらはその一線を越えてるだろ!」
彼らにとって正しいのは自分たちであり、悪である海賊たちを除く事を望む意見を述べていく。
アルステッドはその声に目を閉じて耳を傾け、うんうんと頷き、話を聞き終わると開眼して口を開く。
「お前たちの意見はよく分かった!だが、その上で言おう。彼の言う通りだと!」
そして彼は力強く言い切った。
「海賊行為が悪である事、罪である事、一線を越えている事。それ自体は認めよう。しかし!彼らをそこまで追い詰めてしまったのは誰であろうか!自ら望んで悪行をなしたのか?否!憎悪が彼らを駆り立てたのか?否!他ならぬ我らだ!」
その演説に俺は、海賊討伐派の転生者たちですら何も言えず、聞き入るばかりだ。
その迫力は父親であるラディウム公譲りであり、同時に本人の持つカリスマを感じさせた。
時に拳を握り締め、時に両手を大きく広げ、身振り手振りを交えながらアルステッドの演説は続く。
「これまで転生者のお前たちを支援できたのは元よりこの世界で生まれ育った彼らの協力あっての事だ!何も一方的に現地の者たちを慮れと言っているのではない。互いが互いを思いやり、尊重してこそ、このラディウムは成り立つのだ!故に!ここで海賊を、いや、貧困に陥った民たちを敵と見做し、攻め立てるべきではない!」
やがて彼の話が終わると、人々は徐々に口を開き、各々の意見を交わしあう。
「……それならオレたちはどうすれば良いってんだよ。」
「こっちに来るまで辛い生活して来たけど、あいつらも似たようなもんなのか?」
「思いやりって言うけど、それで急に海賊がいなくなる訳じゃないんだろ?」
「でもアルステッド様の言う事も分からなくもないよね。」
意見を翻した者、変わらず海賊を排除するべきだと考える者、割合としては良くて3:7と言った雰囲気で、まだまだ状況は良いとは言い難い。
だが、アルステッドは少なからぬ影響を与えられた事は確かだろう。