彼の言う通りだ!
「本当に海賊を倒しに行くべきだと思っているか!」
「もちろんだ!」
「あいつらのせいで生活がやべぇんだ!」
「海賊をぶっ倒せー!」
声を張って投げかけた問いは海賊に対する怒りの反応で帰ってきた。
俺自身に対するものでは無いにしても、その多大な負の感情は俺に重く圧し掛かる。
「……その海賊が元々この世界で普通に生活していた人々だったとしてもか!」
「元々いたって言ったって、海賊は海賊だろうが!」
「そうだそうだー!」
それでも発言を止める訳にはいかない。
僅かに怯みながらも言葉を続けようとするが……
「なんだ兄ちゃん、お前は反対だって言うのかよ?」
「……っ!」
群衆を割って体格の良い三人の男たちが俺の前に進んでくる。
ありありと不満の表情を浮かべた彼らは、俺の海賊討伐を宥める姿勢の演説が気に喰わないようで、ゴキゴキと拳を鳴らして俺を威嚇する。
このまま喋り続ければ実力行使も辞さないと言った雰囲気に圧され、言葉に詰まってしまう。
しかし、
「リョータ、安心しろ。」
「オルガノ?」
「やろうってんなら、まずはオレが相手になる。」
「ぐっ……!海賊と比べりゃテメェなんて……!」
「で、でもよ……こいつ、あのオルガノだぜ?」
「言わせるだけ言わせときゃいいだろ?戦う前から怪我なんざしたかねぇぞ。」
俺の後ろに控えていたオルガノが、俺を守るようにズイッと前に出て男たちと相対する。
相手からすれば威圧感が凄まじいだろうが、俺にとってその背中はとても頼もしい物だった。
彼に気圧されてすごすごと踵を返す男たちを一瞥し、深呼吸をしてから演説を再開する。
「皆、公爵から補助金だとかを貰ったりして世話になってきたんだよな!」
「そうだ!」
「公爵様に恩返しする機会だ!」
「でもその補助金を負担してるのは誰だ!」
「それは……」
「公爵様だろ!」
話を聞く群衆の中には俺が何を言いたいのか察し、言葉に詰まる者も現れ出す。
「全部が全部、公爵の私財って訳じゃないだろう!元々ラディウムで暮らしていた人々の払った税金で賄われているはずだ!」
「だからと言って海賊になって良い訳ないだろ!」
「そ、そうだそうだー!」
それでも未だ海賊討伐派は多く、彼らの理屈を以て反論して来る。
確かに海賊になる事は良い事ではない。
しかしそれは、それほどまでに追い込まれてしまった事の証左でもあるのだ。
「これまでずっと優遇してもらったんだ!俺はこの街と比べて質素に生活している彼らの姿を見た!彼らの事も思いやっても良いんじゃないか!」
「この世界でようやくまともに生活出来るようになったってのに、冗談じゃないぜ!」
「オレたちだって我慢してきたんだ!もうやっちまおうぜ!」
「そうだそうだ!」
要約してしまえば、転生者たちだって譲歩するべきだと言う事だ。
最初に現地民が譲歩させられていたとしても、彼らには受け入れられないのか。
一部の人々にこそ俺の想いは伝わっているはずだが、それでも海賊に対する怒りや憎悪を溶かす事は出来ていない。
言葉を尽くして説得しようにも、多くの人々は暴走しかけている。
「彼の言う通りだ!」
その時、聞き覚えのある、よく通る声が広場に響いた。