過熱
「海賊どもをぶっ殺せー!」
「そうだそうだー!」
「オレたちの生活を守るんだー!」
「奪わせやしねぇぞー!」
「今こそ公爵様に恩返しをするんだー!」
「海賊を殺せるんなら命なんか惜しくはなーい!」
広場に到着すると、およそ五十人程度と思しき人だかりが出来ており、口々に海賊への怒りを並べていた。
「かなり過熱してるな。」
「以前までは街角とかで四、五人屯って不満を言い合う程度だったんだが……少しずつ熱くなっていって、今じゃこの有様だ。オレの話も聞きやしない」
どうにかして皆を落ち着かせないと、と考えていると……
「ん?おぉ!リョータじゃねぇか!それと……オルガノ?」
偶然、人だかりの外側にいたライアンに声を掛けられる。
彼は俺の姿を見ると嬉しそうな笑顔を浮かべるが、隣にいたオルガノに気が付くと表情は一転して強張ったものになった。
「な、なんだよ、また止めに来たのか?それなら無駄だぜ。これから海賊と戦おうってんだ。お前になんかビビッてられねぇんだよ。」
「どうあっても、か?」
「うぉっ!?べ、別にビビっちゃねぇが、それでも海賊と戦う前に怪我すんのは御免だぜ!」
オルガノは拳を鳴らしてライアンを脅す、もとい問い掛ける。
彼は顔を青くして冷や汗を流しているものの、虚勢を張って引き下がる事は無かった。
この様子ではどう見ても海賊と戦うなんて無謀以外の何物でもない。
「そんな事よりも聞いてくれよリョータ!……って言いたいところだが、オルガノが隣にいるってこたぁ、もしかして話は聞いてる感じか?」
「海賊を倒しに行くつもりか?」
「応よ!公爵様は動いてくれねぇし、やっぱりオレたちの生活はオレたちの手で守んなくちゃな!」
「ライアン……」
「んな顔すんなよ。それよりも、まさかお前もオルガノみたいに止めるつもりか?」
ライアンはこちらに向き直り、喜ばしそうな表情で報告しようとする。
内容が別の物であれば、それは喜びを共有し、俺も笑顔でそれを聞き入れただろう。
しかし、残念ながら海賊討伐を、内戦参加を決意するものであり、到底笑顔になれはしない。
それを察した彼は納得いかないと言いたげな表情になり、眉間に皺を作って俺に尋ねる。
ライアンだけではなく、この場にいる人々に声を届けるためにスゥっと大きく息を吸い、投げかける。
「皆、俺の話を聞いてくれ!」
この場には直接的な関わりのある人間の方が少ない。
耳を傾けてくれたとしても聞き入れてもらえるとは限らない。
それでも、それでも止めない訳にはいかない。
少しでも死者や怪我人を減らすために、争いを起こさせないために。