懺悔するかのように
「身体ではなく、心?」
アルステッドは不思議そうに首を傾げて問い掛ける。
やはりと言うべきか、彼の反応を見るにこの世界には心の病と言う概念は存在しなかったようだ。
「心とは……病むものなのか?」
「あぁ、俺のいた世界の概念だけど、心だって健康な状態だったり病気になったりって考え方があるんだ。」
「その考え方はこれまで聞いた事が無かったな。しかし心の健康など、どうやって判別すると言うのだ?これまで転生者たちがもたらしてきた道具にはそういった物は無かったが、リョータの世界では使われていたのか?」
「いや、診断とかで判別する事はあるだろうけど、専用の医療機器って意味では存在してない、のかな?」
俺も専門的な知識がある訳では無いから明言は出来ないが、少なくとも判別用の機械があるとは聞いた事が無い。
「それで『心を病む』とはどういう事だ?病と言う事は命に関わるのか?」
「自殺だったり、不眠症や過食症、拒食症を発症して体調を崩したりする事もあるらしい。でも症状は人それぞれだから、具体的にこう、とは言えないな。」
アルステッドは心配そうに心の病について尋ねる。
とは言え俺が実際に心の病とそれに伴う不調を体験した訳でもないし、つい先ほど出会ったばかりのラディウム公の状態を詳しく把握する事も出来ていない。
ただ、少なくとも……
「言い方は悪いけど、冷静さを失っているって言うか、正常な判断を下すのが難しくなってるって言うか……そんな風に感じられるんだ。」
「母上の葬儀の日から、父上はそれまで以上に政務に忙殺されるようになった。私もユーステッドもそのせいで父上と関わる時間は更に減った。しかし、わがままを言ってでも、家族みんなで悲しみを分かち合い、時を共にするべきだったのだろうか……。」
「それは…………。」
俺が自分なりの所感を伝えると、アルステッドは俯き、懺悔するかのように言葉を紡ぐ。
部外者である以上、俺にはそれが正解とも間違いとも言えず、沈黙以上の回答が出来ない。
「いや!今更詮無き事だな!自らのせいで家族が悩み、悲しむなど母上も望みはしないだろう!」
少しするとアルステッドは俯いていた顔を上げ、高らかに声を上げる。
しかし俺にはそれがどこか無理をしているような、よく言えば明るく振舞う事によって自らを鼓舞する、悪く言えば後悔や悲しみに蓋をして仮面被っているような姿に見えてしまった。
初めて会った時は明るく大らかな人物だと思ったが、実際にはそう見えるように振舞っているだけだったのかも知れない。