『覚悟を決めた』
「どうしてこうなった……?」
ラディウム公と面会をしていたはずが、何故か今は牢屋の中にいる。
一応は現在の政策を採り続けている理由を聞く事は出来たけれど、新たな疑問も生まれた。
結局、彼を説得して転生者と現地民の格差を是正する事も出来なかった。
「ユーステッドたちの母親、ラディウム公の奥さんの話題に触れてから明らかに様子がおかしかったよな……。」
『ジェーン』と呼ばれた人物とラディウム公の間に何らかの問題でもあったのだろうか。
しかし詳細を聞こうにも、その前に話は切り上げられ、投獄されてしまった。
「どうにかして出れないか……?」
牢の中から見える範囲に見張りはいないが、俺には創作物に登場する盗賊のような鍵開けの技能なんて無い。
ユーステッドの助けを望みたいところだが、謹慎させられてしまい、それも期待できそうにない。
映画よろしく、こっそりと穴を掘って脱獄するか?
しかし道具もなければ地理情報も分からない。
「『頭を冷やしていろ』なんて言われたけど、具体的な期間は一切言ってなかったんだよな。」
そうしている間にも刻一刻と内戦発生の可能性は高まっている。
ラディウム領の問題を解決する策は思い浮かばないものの、すぐにでもここから出たいくらいだ。
「一体何をしたのですか、客人。」
「マーク!」
地獄に仏とはまさにこの事か!
ユーステッド本人が助けに来る事は不可能でも、彼の臣下であれば話は別。
薄暗い牢獄に思わぬ人物の来訪に俺の顔は明るくなった。
しかし……
「別に釈放に来た訳ではありません。」
「は?」
「そもそも若様から命令を受けておりませんし、何より公爵閣下の命によって投獄されたのであれば釈放する理由がありませんので。」
「それなら何のために来たんだよ……。」
マークは別に俺を助けに来てくれた訳では無かった。
希望は淡くも打ち砕かれ、ガックリと肩を落とす。
「若様から『オレの発言のせいでこのような事になってしまい済まない。だがオレは今回の一件で覚悟を決めた。リョータは休んでいてくれ。』と言付かっておりますので、それを伝えに。」
そんな俺の姿も気にせずに彼は主君からの命令を果たす。
「確かにお伝えしました。それでは私はこれで失礼致します。」
「ちょ、ちょっと待て!」
そして自身の仕事を果たしたマークは踵を返し、牢を後にしようとする。
ユーステッドの事を聞こうと慌てて引き止めるも、彼は気に留めず、足早に去って行ってしまった。
「……『覚悟を決めた』って、ユーステッドは何をするつもりなんだ?」
俺の呟きは誰にも届く事なく、牢獄の虚空へと溶けていった。