その名を口にするな
「これが最も効率の良いやり方だからだ。」
「効率?」
「そうだ。転生者と言えど全員が素晴らしい知啓をもたらすとは限らない。それでも彼らを囲い、保護する事でその確率を上げる。転生者ではない者どもを同じように扱ったとしても、大した成果は上がらない。ならば前者を選ぶのは当然であろう。」
彼の答えは『効率』だった。
確かに効率は大事だろう。
しかし為政者がそれのみを重んじて困窮する現地民を蔑ろにするなんてあってはならない。
政治について詳しい訳でもないし、明確な意見がある訳でもないが、それでも効率だけを優先するのは間違っていると感じる。
「ですが、結果として海賊が跋扈するようになり、その効率が下がっているのでは?」
「奴らとて転生者のもたらした知啓の恩恵を与っているにも関わらず、何とも愚か極まるわ。」
「……転生者の過度な優遇を止めれば問題は解決するのでは?」
ラディウム公の物言いに思わず眉を顰めそうになるも、努めて表情を変えずに意見を具申する。
「ふん、良い機会だ。私の統治に異を唱え、海賊に身をやつすような不穏分子はまとめて始末してしまえばいい。」
「ですが、その為の兵士たちはいないのでしょう。」
「……予備兵力がいない訳では無い。」
しかしラディウム公は海賊を、不満を抱いた現地民を不穏分子と呼び、排除すれば良いと語った。
その兵士たちは既におらず、手が足りないだろう事を指摘すると、彼は若干言葉に詰まりながら返事をする。
今が好機と判断し、俺は更に説得を試みる。
「今ならまだ間に合うのでは?方針を改める最後のチャンスではないでしょうか?」
「ならん。貴様のような転生者であればこの政策を支持するべきであろう。」
「何故そんなにも頑ななのですか!?」
ラディウム公は一切揺るがず、意見を覆す事は無い。
彼から聞いた政策の理由は『効率』。
現在の方針以上に効率的な政策は思い浮かばず、そもそも効率を悪化させている原因を取り除くための説得も届かない。
どうしたものかと考えていると、ユーステッドが会話に割り込んでくる。
「もしや、母上が関係しているのですか?」
「え……?」
「ユーステッド!!!」
母上?ラディウム公の妻が一体どう関わっているのか、それを聞く前にラディウム公はユーステッドを怒鳴りつける。
「あやつは、ジェーンは……関係ない。その名を、口にするな……。」
ラディウム公は肩を震わせながら静かに、しかし有無を言わせぬ気迫でそう命じた。
「ユーステッド、お前は謹慎だ。この城から出る事は許さん。そしてそこの貴様、しばらく頭を冷やしておれ。」
「……は?」
「衛兵!こやつを牢へ連れて行け!」
彼は話を切り上げ、俺を牢屋送りにする。
思わぬ出来事に唖然としている間に両脇を衛兵で固められ、そのまま連行されてしまう。
気が付けば薄暗い牢の中に捕らわれてしまったのだ。