怒鳴り声
ユーステッドの後ろに続いて階段を上り、公爵の執務室がある廊下を進む。
その先には二人の警備の兵士が立っており、こちらに気付くと彼らはギョッとした表情で駆け寄ってきた。
「若様!?いつお戻りに!?」
「いったい今までどちらへ!」
「先ほど戻った。詳しくは直接父上に説明するから通してくれ。」
「はっ!」
「しかし、そちらの方は……?」
ユーステッドに声を掛けられた衛兵は背筋を伸ばして直立する。
しかし道を開ける事は無く、俺をチラリと見てユーステッドに尋ねた。
流石に公子と一緒にいるからと言って無条件で通してはくれないか。
「オレの客人だ。問題無い。」
「念のため確認させて頂きたいのですが、入城許可証はお持ちで?」
「えっと、それは…………」
ユーステッドは腕を組んでそう言うが、衛兵は譲る事無く許可証の提示を求めた。
マズい、そんなものは持っていない。
しどろもどろになりながら、どうにか言い訳をしようとするも、言葉が続かない。
このままでは怪しまれ、追及されてしまう。
そう考えていると、ユーステッドが衛兵の前に一歩詰め、口を開く。
「オレが許した。それでは不服か?」
「し、しかし、入城許可証を所持していない者を城内に入れていては、その……問題に……」
ある意味、公子としての立場を最大限に活用した問いかけ、いや暗に命令を下した。
それを聞いた衛兵は言いづらそうに、しかし納得もせず、俺をこの場に止めようとする。
するとユーステッドは業を煮やしたかのように、不機嫌そうな雰囲気を醸し出し……
「それとも、この場にオレを待たせて改めて手続きをしろ、と?すぐにでも父上の下に行き報告せんとするオレにここで待て、と?そう言いたいのだな?」
高圧的に言い放った。
「い、いえ!滅相もありません!」
「どうぞ、お通り下さい!」
「あぁ、ご苦労。行くぞ、リョータ。」
それを聞いた衛兵は冷や汗を流しながら即座に廊下の端に寄り、道を開ける。
流石に自分たちの保身を優先したようだ。
若干申し訳ない気持ちになりながら彼らの前を通り過ぎ、俺たちは廊下を進んで行く。
そして……
「ここが父上の執務室だ。行くぞ。」
遂に執務室の前に到達し、ユーステッドはドアをノックした。
「入れ。」
「失礼します。ただいま戻りました。」
一拍置いて室内から許可が下り、扉を開けて入室する。
視線を手元の書類から来訪者に向けたラディウム公は目を見開き、次の瞬間……
「この、馬鹿息子がぁぁぁ!!!今までどこをほっつき歩いておったか!!!」
家出息子への怒鳴り声が執務室に響き渡った。