不可能、と言う訳では無い
ユーステッドとの密談を終えて俺たちは小屋の中に戻る。
「あー、戻ってきたー。」
「愛の告白終わったー?」
「愛でもないし告白でもない!」
先程と変わらぬ声色でからかってくるイーシャ。
いや、表情も変わっておらず本心から言ってそうですらある。
一方のラッセルも小屋を出る前こそ悪ノリしていたが、今度はふざけずに俺に問い掛けた。
「それで、何を話していたかは分かりませんがこの後はどうする予定で?」
「取り敢えずランドルフからもう一度話を聞いて、それから改めて作戦を考えようと思う。」
どのような情報であれ、問題を解決する糸口に成り得るのであれば、知っておいて損は無い。
まずはランドルフから、彼がラディウム公とどのような言い争いをしたのか話を聞く事にした。
しかしそれにユーステッドが待ったをかける。
「言い忘れてたが、叔父上ならしばらく戻ってこないと思うぜ。」
「戻ってこない?どこかに出かけてるのか?」
「海。」
「海?……海賊としてって事か。」
「そういうこった。少なくとも一週間はこっちには戻らないだろうな。」
海と聞いて一瞬ピンと来なかったが、彼は海賊のリーダーなのだから当然の事か。
しかし一週間……それは流石に長いな。
ただ待つだけと言うのも落ち着かない。
その間に内戦が始まってしまう可能性もある。
それならば…………
「……なぁ、ユーステッド。どうにかしてラディウム公と話をする事は出来ないか?」
俺も出来る事をするべきだ。
一応は大勢の転生者を擁する『差し伸べる手』のリーダーであり、ラディウム領の事情を知りながらも、転生者を優遇する政策の恩恵を受けていない外部の人間でもある。
加えて彼の兵士たちは降伏しており、彼の視点からすれば状況は逼迫しているだろう。
それならば対話の芽はあるはずだ。
「不可能、と言う訳では無い。」
「本当か!」
「が、正直なところ有効な手立てとも思えないな。」
「それは……それでも、可能性は低くても試してみたいんだ。それにもしもラディウム公の説得に成功したら問題は解決するんだし、やるだけやってみるさ。」
ユーステッドは苦々し気に眉を顰めながらも、対話自体は可能であると言う。
だがその表情と声色からも分かるように、暗に止めておけと言いたげだ。
しかしそれでも、ここで無為に時間を過ごすよりは有意義だろう。
「……分かった。いったんジュテームに戻ろう。」
「イーリスとイーシャはどうする?一緒に帰るか?」
「んー、あたしたちはまだこっちにいるー。」
「グランマによろしく言っておいてー。」
「リョータ殿、自分からはこれを。」
「この手紙は?」
「先日マデリン殿から頂いた手紙の返事です。手すきの際に渡して頂ければ。」
「あぁ、任された。」
ラッセルから手紙を預かり、イーリスとイーシャに見送られて俺たちはディヴェラを後にするのであった。