王の権力
「現地民同士での殺し合いこそ避けられたが、それでも今尚薄氷の上にいる事に変わらない。領邦軍がいなくなったが、父上は未だに動きを見せない。どうしたもんか……。」
一難去っても現状は厳しい。
その事に彼は嘆息するも、それで問題が解決する訳では無い。
しかしそれでも現地民同士が殺しあう事態は避けられたのだ。
それにその話を聞いて一つの案が浮かんだ。
「なぁ、ユーステッド。いっその事アルステッドかユーステッドが王位に就いて、ラディウム領に改革命令を出すって約束して海賊を解散してもらうってのはどうだ?」
「それも一つの手段ではあるがその場しのぎにしかならないだろう。」
「どうしてだ?王様の命令ならラディウム公も聞かざるを得ないんじゃないのか?」
「ウラッセア王国の領主たちは領地の運営を一任されているんだ。王からあれをしろ、これをしろと言って命じる事は出来ない。それこそ内戦が起こりでもしない限り、強権を発動する事は不可能だ。」
彼ら兄弟のいずれかが王様になれば、ラディウム公は父親でこそあるものの立場上は部下と言う事になる。
それならば一時的に事態を鎮静化する事さえ出来れば、あとは命令するだけで格差と言う根本的な問題は解決すると考えた。
時間はかかるだろうが、それでも内戦の発生を防ぐ事が出来ると。
しかし実情は俺が想像していた王様と大分違うようだ。
「王様の権力ってそんなに強くないのか……。」
「皆無、と言う訳では無いが権力よりも権威って感じだ。昔はもっと権力を有していたらしいものの、今ではその権力も分散している。」
意外な実情が作戦を根底から覆した。
ユーステッドの言う過去ならともかく、現在では不可能そうだ。
王様と言えば権力があって貴族たちに命令したりする立場だと思っていたが、この世界では俺の想像以上に貴族たちの権力の方が強かったのか……。
いや、歴史を思い返せば中央よりも地方の方が力を付ける事例だってあるし、決しておかしな事ではないだろう。
「しかし王位、か。恐らくは兄上が就く事になるだろう。」
「年功序列って事か?」
「あぁ。弟のオレが国王で兄がその下となると、後の禍根になりかねない。周りに担がれる可能性もあれば、数世代後に火が着く事もあり得る。まぁそれを言ったら今回の王位継承の話も一切問題が無いって訳じゃねぇんだけどよ。」
「……何と言うか、大変なんだな。」
「全くだ。面倒ったらありゃしねぇ。」
貴族ならではの、地位が高い人間ならではの悩みに曖昧な返ししか出来ない。
それでもユーステッドは頷いた後、嘆息しながら吐き捨てるのであった。