この地に生きる民と共に
「前にランドルフの所にオージ様が来てねー。」
「ディヴェラの人じゃなかったから誰かなーって思って見てたのー。」
「それでねそれでねー。」
話の途中でイーリスは椅子に腰かけ、イーシャは部屋の入口に立つ。
何を始めるつもりなのか。
「ランドルフ殿、いや叔父上!どうかオレに力を貸してくれ!」
「おいおい、どうしたってんだ?」
「父には何を言っても聞き入れられない。このままではラディウムが二分されてしまう!」
「あぁ、その事か……。オレもどうにかしてぇとは思っちゃいるが、オレが言ってもあの馬鹿は聞く耳を持ちやしなかったんだ。オレに出来る事なんざこっちの連中が軽はずみな事をしねぇように言って聞かせる程度さ。」
ユーステッドはランドルフの下を訪れ、相談を持ち掛ける。
その相談とは転生者と現地民の軋轢の件だった。
しかしランドルフは納得したように頷いたものの、自身では解決出来ない、力にはなれないと語る。
「耐えるしかないと、そう仰られたいのか……。」
「悪ぃな。オレもどうにかしてぇところだが、手詰まりなんだよ。」
ユーステッドは頼りとしたランドルフにもどうにも出来ないと聞き、俯いて肩を震わせた。
しかし僅かな間をおいて彼は顔を上げ、決意に満ちた瞳で叔父を見据えて宣言する。
「オレもこの街に住む。」
「はぁ!?おいユー坊、確かにおめぇの継承権は第二位だが、それでも跡継ぎ候補にゃ変わらねぇんだぜ?それが民草に混ざって過ごすなんざ……」
「だからこそ、だ。オレはこの地に生きる民と共に歩む。苦楽を共にし、未来へと歩むからこそ指導者は民を慈しみ、民は指導者を敬うのだろう。オレにも彼らと共にこの苦境を分かち合わせてくれ!」
「こりゃ何言っても聞かねぇって顔してんな……。仕方ねぇ、オレの許可なんざ必要ねぇだろうが、追い返したりはしねぇよ。」
ユーステッドの宣言にランドルフは目を見開いて驚愕し、ジュテームに帰るように説得するが、彼の瞳に宿った決意は陰らない。
そして遂にランドルフは額に手を当て、天を仰ぎながら白旗を揚げる。
しかしその顔はどこか満足げで、僅かな笑みが零れているのであった。
「って事があったんだよねー。」
「とってもカッコよかったよー。」
イーリスとイーシャはそれぞれ、ランドルフとユーステッドの全く似ていないモノマネをしながら当時の状況を再現した。
しかし彼女たちの演劇、ではなく話を聞く限り……
「ユーステッド、様はラディウム公の息子でアルステッドの弟なんですか?しかもランドルフ、様はラディウム公の兄弟に当たると?」
「様付けも敬語も不要だ。もちろん叔父上にもな。あくまでも今は一介の民に過ぎないんだからよ。」
とてもそうは見えなかったが、ユーステッドはラディウム公の息子であり、アルステッドの弟。
そしてランドルフもまたラディウム公の血縁者だった。
本人は一介の民と言っているが、本来ならばこのような場所で生活している立場の人間ではない。
あまりの行動力に思わず俺の顔は自然と引き攣っていた。
アルステッドは複雑そうな表情で優秀な弟だと言っていたが、確かにこれは詳しく説明しかねるだろう。
「昔聞いたお話に登場するオージ様みたいでー」
「とっても素敵だったのー。」
「オレは王子じゃないって何度も言ってるんだけどなぁ……。」
「それでもアタシたちにとってはオージ様だからねー。」
「ねー。」
ユーステッドは肩を竦めながら双子の意見を否定するが、彼女たちはそれを気に掛ける事は無い。
二人は笑顔で頷きあい、目を輝かせて彼を見やるのであった