オージ様
「イーリス殿、イーシャ殿、もう入って来ても良いですよ。それと、恐らくユーステッド殿もいるのでしょう?」
「「はーい。」」
「よく分かったな。」
「皆、もしかして話を聞いてたのか!?」
ラッセルが俺の背後に向かって呼びかけると、入口から三人が現れる。
特に物音もしなかったのだが、彼は何故気が付けたのだろうか?
「ラッセルが大事な話してそうだからー」
「そこで待ってたのー。」
「入口の壁の端から顔を覗かせていましたけどね。」
いや、普通に見えていただけだった。
と言うかユーステッドはともかく、イーリスとイーシャには内戦の話を聞かせて良かったのだろうか?
見たところ混乱や怯えは無いようだが……
「なにー?」
「あたしたちの顔に何か付いてるー?」
「いや、さっきの話を聞いてたって事は、」
「彼女たちも内戦の件に関しては知っていますよ。リョータ殿が来るまでは連絡員として度々ディヴェラに訪れていますので。」
彼女たちを見つめていると、不思議そうにキョトンと顔を傾げる。
この反応は事の重大さを理解していないのか、はたまた既に知っているからこそなのか。
恐らく後者だろうと思いながら問い掛けようとすると、ラッセルは先んじて事情を説明してくれた。
「怖くない訳じゃないけどー」
「皆が傷付くのは嫌だからー。」
「イーリス、イーシャ……!」
「まぁやってる事はお使いくらいなんだけどねー。」
「あんまり役に立ててるって気はしないよねー。」
「自信を以て誇ってもよろしいかと。伝令も大切な役割ですので。」
正直なところ、普段の言動から深く考えていない、良くも悪くも子供らしさを感じさせる双子だと思っていたが、彼女たちの本心は間違いなく仲間を想うものだった。
それにラッセルも言うように、この街にいた事がある彼女たちならではの働きなのだから決して卑下する事は無いだろう。
「それにしてもー」
「さっきのリョーター」
「カッコよかったねー。」
「皆で仲良くが一番だからねー。」
「オージ様ほどじゃないけどねー。」
二人の話を聞いて感動していると、逆に先程の宣言について褒められた。
ストレートにカッコよかったと言われて思わず照れてしまう。
しかし……
「この前は聞きそびれたんだけど、王子様って誰の事だ?」
そう、彼女たちが誰かをオージ様、王子様と呼んでいるが、その人物が誰なのかを知らないのだ。
この二人にそんな人物と接点があるとは思えなかったが、人は見た目に依らないものだ。
意外な人物と繋がりがあるのかも知れない。
「この人がー」
「オージ様ー。」
彼女たちが指差した人物。
それは……
「ユーステッド……?」
ディヴェラで出会った赤毛の青年であった。