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異世界転生後輩  作者: 一之三頼
第2章 ラディウムのヴァイキング
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欲を張る

ラッセルはこれまで弄っていた釣竿を机に置き、俺を見つめて問い掛ける。


「さて、何故内戦が起こるのか、と言うリョータ殿の疑問に対する答えは出ましたね。その上で、貴方はどうしたいですか?」

「どうしたいって…………」

「ラディウムから逃げ出したいのであれば止めはしませんよ。誰しも自らの命は大切なものですから。」


実際、内戦が迫っている事を考えると恐怖を抱かざるを得ない。

可能であるならば、すぐにでも本土に避難するのが現実的だし安全だろう。

ラッセルもまたそれを止めたりはしないと言う。

しかし、しかしだ。

ここで逃げてしまって後悔しないと言えるのだろうか。

この地に生きる人々を見捨てて後悔しないと言えるのだろうか。

俺は、俺は『どうしたい』んだ……?

怖い?死にたくない?そんなの誰だってそうだ。

その上で『どうしたい』か、なんだ。

目を瞑って自らの胸に手を当て、本心を引きずり出す。


「……俺は、内戦を防ぎたい。ランドルフたちが海賊をする理由を除きたい。でも転生者の皆が生きていける状態でもあってほしい。」

「随分と欲を張るのですね。」


ラッセルは苦言を呈する。

彼の言わんとする事は分かる。

欲を張ったところで現実は変わらないだろう。

しかし無欲に生きる事なんて出来ないんだ。

それなら、どうせ欲を張るのなら、大きく張って行こうじゃないか。

遠慮だとか、現実的な考えだとか、これまで心の深い所で引いていた一線を取り払い、開き直って考えると、俺の想いは口からするりと溢れ出てきた。


「俺は『差し伸べる手』のリーダーとして、転生者同士だけじゃなくて、この世界で生きる人々とも互いに支えあっていけるようにしたいんだ。」

「大言壮語、ここに極まれりですね。実に身の程知らずかと。」

「それくらい分かってるよ……。でも……」


現実的じゃないのは理解している。

それでも理想を掲げる事は悪い事じゃないはずだ。

目標もなく流されるままに生きるよりも、身の程知らずだとしても理想を抱いて生きていきたい。

転生者と現地民では確かに違うかもしれない。

出身から来る常識や文化は齟齬が生じるだろう。

しかしそれでも、決して分かり合う事が出来ないと言う事は無いだろう。

どちらも今を必死に生き、より良い未来へと歩んで行こうとしているのだから。


「ですが、悪くないですね。元より自分もラディウムで、いえ、どこであろうとも内戦など勘弁ですので、微力を尽くさせて頂きましょう。」

「ラッセル……!」


これまで淡々としていたラッセルの声色は徐々に優しい物になっていき、雰囲気も柔らかくなる。

志を同じくした事、認められた事が嬉しくて俺は彼の名前を噛み締めながら呟く。


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