気に喰わない
『内戦』の単語を聞くまでは溌溂とした雰囲気を纏っていたユーステッドも、帰路においては真剣な表情で黙り込んで考え事をしていた。
結局、沈黙が空気を支配したまま酒場に到着し、彼と別れて俺は夕方まで休息する。
「ランドルフ、あんたたちはなんで海賊なんてやってるんだ?」
「いきなり随分とぶっこんだ事聞いて来んじゃねぇか。」
ランドルフの姿を確認した俺は彼の下へ行き、単刀直入に聞くべき事を聞く。
彼は木製のグラスを片手に呆れ顔を浮かべていたが、性格や振舞いの面から考えると変に駆け引きをしたり迂遠な問い方をするよりもこちらの方が良いだろう。
「まぁ答えてやるが……気に喰わねぇからだよ。」
「気に喰わない?」
「ボウズ、お前さんジュテームから来たんだろ?」
「そうだけど……それがどうかしたのか?」
「あの街を見てどう思ったよ。」
「そりゃ豊かな街だなって……。」
「そう、豊かなんだよ。」
何が気に喰わないのか理解できなかったが、首を傾げる俺を気にせずにランドルフは意見を求める。
取り敢えず率直な感想を伝えると、彼は俺の意見に同意してグイっと酒を呷り……
「『転生者』の連中はな!」
「っ!」
ドンッ!と机にコップを叩きつけて声を荒げる。
「オレたちだってラディウムに生きる民だ。税だって治めてる。けどな、ラディウム公、ジョーヴァンの野郎はいつだって転生者どもを優遇してきた!あの野郎は転生者どもには生活の補助って形で税金を使うが、貧しい現地住民には何も無し、それどころか遠慮も配慮もなく徴税しやがる!街の開発だって転生者が多くいるジュテームが最優先、ディヴェラみてぇな地方に投資の一つもしやしねぇ!命を張る兵役だって転生者は免除!そんなやり方をするような奴に不満を抱かねぇ訳がねぇだろう!」
堰を切ったように不満の意見がランドルフの口から飛び出してきた。
そして幾つもの不満の根底には『転生者の優遇』が存在する。
「それでも海賊なんて……!話し合いとかで解決出来ないのか?」
「言って聞くようなら最初からこんな真似しちゃいねぇさ。言葉を尽くそうが省みられねぇってんなら、やるしかねぇだろう!」
もはや対話による解決は既に望むべくもない。
だからこそ彼は海賊行為と言う望まざる手段にも手を染めているのか……。
裕福な転生者に被害を与えながら、現政策に不満を抱いている集団がいる事を事を是が非でも示すしかない、と。
「っと、怒鳴っちまって悪かったなボウズ。だがよ、一応言っとくと極力殺しはしちゃいねぇぜ?やりすぎると返って自分たちの首を絞める事になる。引くに引けねぇ所まで追い詰めちゃご破算だからな。あくまでも相手が話を聞いても良い、妥協しても良いって考える程度に活動してんだからよ。」
「不満があるのも、海賊活動って形で抗議してるのも分かったけど、けど内戦まで起こすのは間違ってるだろ!」
「は?内戦?何言ってんだ?」
「え?」
ランドルフが一息ついて謝罪をする。
彼の言い分も理解出来ない事は無いが、それでも内戦を引き起こさせる訳にはいかない。
しかし『内戦』の単語を耳にした彼は怪訝な表情で俺に聞き返すのであった。