いずれは必ず
ラッセルは釣り針を垂らして川を眺める。
答えは教えないが質問には答えると言う事だろう。
それならばまずは初歩的な事から明らかにしていこう。
「ジュテームとディヴェラの格差、ジュテームは豊かだったけどディヴェラは質素だ。これは内戦の発生と関係あるのか?」
「良い着眼点ですね。如何なる時代においても格差とは不満を生じさせ、ともすれば争いの火種となるでしょう。」
つまりは地域格差が原因って事か。
実際、ジュテームは非常に発展しており、豊かさを感じさせた。
反面、ディヴェラはジュテームの豊かさを見た後と言う事もあって余計に質素に感じさせられた。
その乖離は人々を争いに駆り立てる要因としては十分だろう。
「ジュテーム、いや中央対地方、豊かな奴らと貧しい奴らで対立してるって事か?」
「必ずしもそうとは限りませんが、概ねそのような構図になりますな。対立した人々はそれぞれジュテームとディヴェラに集まりつつあります故。」
理由の一つではあるが地域格差だけが原因じゃない?
それならば何故内戦が起ころうとしているのだ?
確実に答えに前進している実感があったが、ここに来て後退してしまった。
一旦視点を変えてみよう。
「ディヴェラの人たちが海賊をやっているのは貧しさが原因なのか?」
「当たらずとも遠からず、と言ったところですね。貧困が一因になっている事に違いはありませんが、それだけではありません。」
こちらの原因も貧困だけでは無かった。
余計に分からなくなったぞ。
貧しさ以外に海賊をやる理由なんてあるのだろうか。
いや、もしかすると……
「ディヴェラに集まってるって事は、海賊たちも内戦の原因に関わってるのか?」
「えぇ、主体となっていると言っても過言ではないでしょう。」
海賊が主体。
やはり海賊の問題を解決する事こそが内戦を防ぐ手立てになるのだろうか。
しかし海賊行為も貧しさだけが原因ではないとなると……
いや、それでも貧困が火種になっている事も事実。
それならば……
「地方が豊かになれば内戦は防げるのか?」
「……現実的ではない話ですが、お答えしましょう。仮にジュテーム以外がジュテームの様に豊かになったところで遅かれ早かれ、規模の違いはあれども、いずれは必ず争いが起こるでしょう。」
「それじゃあ一体どうすれば……」
豊かになっても争いが起こるだなんて、何が彼らを駆り立てると言うのだ。
不足なく日々を送れるのに不満があると言うのだろうか。
俺には分からない。
争えば傷付き、最悪死んでしまう可能性すらあると言うのに、何故争おうとするのか分からない。
「……ランドルフからも話を聞く。」
「そうですか。彼は今夜にでも酒場に顔を出すでしょうから、その時に声を掛けるとよろしいかと。考えがまとまりましたら、また来て下さい。」
「分かった。ありがとう。」
海賊側の情勢に一番通じているのは、その長たる彼を置いて他にいないだろう。
一切恐怖を感じない訳では無いが、話が通じない相手では無いと言う事は分かっている。
ならば対話による理解だって可能なはずだ。