問答を始めましょう
「それで、わざわざラディウムの外からこのような僻地までご足労頂いたご同輩は如何な用事を携えているので?」
「元々はディヴェラに用事があってラディウムまで来たわけじゃないけど、ジュテームでグランマ、えっとマデリンって人から手紙を預かってるんだ。」
「ふむ、彼女から……。内容は大方予想が付きますが、頂きましょう。」
ラッセルの為人を分析していたものの、本題を尋ねられたので思考を切り替え、俺は手紙を差し出す。
彼は釣り針に餌を付け、川へと放ると片手で釣竿を持ち、もう片手で手紙を受け取って封を開けた。
取り敢えずはこれで肩の荷が下りたと言ったところか。
「…………やはり頃合い、ですか。」
「差し支えなければ内容を聞かせてもらってもいいか?」
「良いでしょう。」
暫し手紙に目を通すとゆっくりと頷いて呟いた。
ここまで届けに来たが、内容は知らなかったので気になってラッセルに尋ねてみる。
一体何が頃合いだと言うのだろうか。
「結論から申し上げますと、ラディウムで内戦が起きます。」
「……え?」
「…………。」
「まぁ内戦と言う表現は正確ではありませんが、死人が出る争いは遠からぬうちに発生するでしょう。」
ラッセルは何ともないような淡々とした語り口で手紙の内容を語る。
予想だにしなかったそれを聞いた俺は脳の処理が追い付かず、辛うじて聞き返すように声を絞り出すのがやっとだった。
そして出会ってから常にポジティブな姿勢を示していたユーステッドもまた、『内戦』の一言を聞くと沈痛そうな表情を浮かべて口を結んだ。
つい先日、本土でもジョセフによる反乱と独裁が解決したばかりだと言うのに、ラディウムでも同じような事が起こると言うのか。
「な、なんでそんな事が起こるんだ!?ラディウムの問題って海賊じゃないのか!?それがどうして内戦なんて……!」
「落ち着いて下さい。」
俺は捲し立てるようにラッセルに問い詰めるが、彼は変わらぬ語気で俺を宥める。
内戦が起きると語る割に、なぜ彼はああも冷静でいられるのだろうか。
いや、思い返せば彼は手紙の内容は大方予想できると言っていた。
つまりは内戦の可能性を予め知っていたと考えられる。
ともあれ、慌てても仕方がない。
こんな状況だからこそ冷静にならなくては……。
「まずはリョータ殿。貴方は『差し伸べる手』の新たなリーダーとなり、ラディウムに来た。そして海賊の問題を解決しようと奔走してる。手紙にはそうありました。その点は相違ありませんね。」
「あぁ、間違いない。」
「であれば、自分は貴方に答えは提示しません。情報は提供しましょう。ヒントを出しましょう。しかし答えは提示しません。」
手紙の内容こそ教えてもらえたが、肝心の部分を教えてもらえない。
人伝に聞いたラッセルは良い奴だと思えたが、本当にそうなのだろうか。
いや、グランマも考えあって木剣を渡した。
ならば彼もまた意地悪故に教えてくれない訳では無いだろう。
それならば……
「……自分の頭で考えろって事か?」
「如何にも。我々のリーダーとなるのです。思考を放棄した愚者を長と認めるつもりなど毛頭ありませんよ。ジャックですら、無い頭を働かせていたのですから。それにこれはグランマ殿の願いでもあります故。」
雛鳥が親鳥から与えられる餌を待つだけのような人物であればお断りと言う事か。
確かに一組織の長がそれでは勤まるまい。
恐らく内戦と海賊の問題は決して無関係では無いはずだ。
グランマにも言ったように、海賊の問題における本質を理解する為に、そして問題を解決する為に、必死に頭を働かせなくては。
「さて、これ以上は無粋。問答を始めましょう。」
ラッセルは魚を釣り上げながら、そう語った。