いかにも自分がラッセルです
「はぁ……それで、ラッセルは?」
「外出中ー。」
「私たちは留守番ー。」
「って事は向こうの川で釣りでもしてるんだろう。」
イーリスとイーシャへの説教は後日するとして、肝心のラッセルはいないようだ。
本題が済んでいないにもかかわらず多大な疲労感を覚えつつ、俺はユーステッドに案内されて川へと向かう。
「仕方ない、行くとするか。」
「よく分からんが、そう気を落とすなって。誰が言ったか忘れたが『溜息をすると幸せが逃げる』だろうだ。」
「『幸せじゃないから溜息を吐く』とも言うけどな。」
「そっちは知らないな。だがどうせならポジティブに考えた方が良いだろう?」
「……まぁ少なくとも最悪の事態にはならなかった訳だし、それでも良いか。」
ユーステッドはその言葉をどこで聞いたんだと思いながらも、転生者の多いラディウムなら不思議な事ではないかと納得して別の表現で切り返す。
しかし彼は明るく持論を述べ、それに毒気を抜かれて自分を納得させた。
「おっ、いたいた。おーい、ラッセルー!」
「叫ばないでもらえますかな、ユーステッド殿……っと。」
「そう言いながらもしっかりと釣り上げるのは見事だ。」
「既に餌に喰い付いていましたからな。後は上手く竿を上げるだけですぞ。」
しばらく歩くと桟橋で釣り糸を垂らしている瘦身の中年がいた。
彼はユーステッドに呼びかけられるも、こちらに振り向くことなく返事をして魚を釣り上げる。
少しばかり近づきがたい雰囲気を醸し出しているが、手紙を渡す為にも声を掛けなくては。
「えーと、初めまして。あんたがラッセルか?」
「えぇ、初めまして。いかにも自分がラッセルです。そういうあなたは本土から来た『差し伸べる手』の方ですね?」
「……!よく分かったな。」
「一つ、ラディウムを訪れる人物の大半は領都ジュテームに用があります。故にディヴェラまで人を訪ねて来ると言う事は、この街に縁がある人物。しかしそのような人物であればわざわざ案内される必要は無い。それならばラディウム外の人物である可能性が高い。」
ラッセルに話し掛け、自己紹介をしようとすると、その前に俺の所属を言い当てる。
僅かに驚愕の表情を浮かべながら感心していると、彼は釣り針から魚を外しながら淡々と論拠を語り始めた。
「一つ、自分はこの世界において非常に新参です。故に自分と所縁のある人物でここまで来るのはご同輩くらいなものでしょう。ましてやこのような不安定な情勢下、ここまで来ると言う事はただの知人とは考え難い。」
なるほど、ラッセルはこの世界に来てまだ日が浅いようだ。
しかし所持している情報量こそ少ない物の、彼の語り口は確かな知性を感じさせる。
「訪れたのはラディウムの外より来た人物。そしてご同輩。これらの情報から鑑みるに、本土の『差し伸べる手』の一員と考えるのが妥当ですので。」
雰囲気はともかく、能力の面では頼りになりそうな人物だ。
それにユーステッドも良い奴だと評価しているし、彼の事を詳しく理解する事が出来れば別の側面も見えてくるだろう。