望まざる海賊
「そうさな。領都の連中が指してる海賊ってんならオレたちの事だ。」
「っ!」
「ハハハッ!そう身構えんな!別に取って食おうとなんざ考えちゃいねぇさ。」
船長は俺の問いかけを肯定する。
自らは海賊である、と。
その答えを聞き思わず身体を硬直させるが、それを見た彼は腰に手を当てて笑いながら害意は無いと語った。
「そもそもよ、オレたちゃ別にやりたくて海賊してるんじゃないんだぜ?」
「え……?」
「さて、着いたぜ。ここがディヴェラだ!」
そして一瞬零れた彼の言葉を耳にし、唖然とする。
『自ら望んで海賊になった訳では無い。』
この言葉の真意を問い質す前に、俺たちは目的地に到着した。
背の高い建築物は無く、あらゆる建物は木造。
華美な街並みだったジュテームとは真逆の質素な姿を見せるディヴェラ。
もしもここが話に聞いた略奪の限りを尽くす海賊の拠点と言うのであれば、俺はその話を疑うだろう。
それほどまでに貧しさを感じさせられたのだ。
「ボウズは向こうにある酒場の空き部屋で寝泊まりしてくれ。話はオレが通しておく。それとラッセルだったか、そいつの居所も酒場で聞きゃあ知ってる奴の一人や二人くらいいんだろう。」
「あ、あぁ。ありがとう。」
「それじゃオレは仕事があるんでな、もう行かせてもらうぜ。」
望んで海賊である訳では無い事、貧しげなディヴェラ、それらの情報は俺を混乱させる。
一つ一つ疑問を紐解いて行こうにも、船長は矢継ぎ早に寝床の紹介と人探しのアドバイスだけして仕事があるとこの場を去る……
「おっとそうだ、オレはランドルフってんだ。人探し程度、断る奴ぁいねぇと思うが、もしなんかあったらオレの名前を出しな。それじゃあな。」
前に思い出したように振り返って船長、老境に差し掛からんとする厳めしい赤毛の人物はランドルフと名乗ってから足早に去って行った。
「嵐のような男だったな……。」
忙しいと言う事もあるだろうが、感謝の言葉以外は口を挟む間も無かった。
本来なら色々と話を聞きたいことだらけなのだが、現状のディヴェラと彼の言葉から推測するに、彼らは貧しさ故に海賊に身をやつしているのではなかろうか。
もしも本当にそれが理由だとするならば、それこそ俺では海賊問題は解消のしようが無い。
政治や経済なんて、それこそ授業で習う程度の知識しか無く、ラディウムで役に立てるほどの能力なんてありはしないのだから。
ジュテームに戻ったらアルステッドに相談するくらいが限界だろう。
「取り敢えずラッセルって人物を探すとするか。」
俺は解決しようのない大きな課題についてあれこれ考えるよりも、まずは簡単な人探しを優先する事にして酒場へと足を向けた。