あんたら海賊じゃないのか?
船長と呼ばれた男は厳つい表情のまま、棍棒を持った海賊に怒声を上げる。
「こんなボウズにのされちまうなんざ情けねぇなぁ!」
「うぅ……」
海賊は肩身狭そうに委縮し、船長から目を背けた。
それを気にせず船長は更に問い掛ける。
「で、どっちから始めた?」
「え?」
「そ、それは……。」
「どっちが先に手ぇ出したって聞いてんだよ!」
「オ、オレらです……。」
それはどちらが戦いの火蓋を切ったかと言うものだった。
海賊の船長らしからぬ問い掛けに俺は困惑し、棍棒の海賊はしどろもどろになっていると、彼は更に声を荒げて聞き直す。
びくりと肩を震わせた海賊はおどおどと手を上げて、それに返答するのであった。
「先にケンカ吹っ掛けて挙句の果てにゃ負かされるだぁ?どうしようもねぇなぁ!」
「うぅ……面目ねぇ……。」
部下の醜態に天を仰ぎ、額に手を当てて嘆く船長。
部下は俯いたまま声を絞り出す。
その様子を見た船長はこちらに向き、予想外の態度を示した。
「そっちのボウズもうちのバカが悪かったな。ほら、テメェも頭下げやがれ!」
「で、でもよぉ、公爵からの遣いは連れて来いって言われてたし……。そんで連れて行こうとしたら断るもんだからよぉ……。」
「徽章は確認したのか?」
「いや、でも見た感じそんな気がして……。」
「バカ野郎!テメェは罰として一カ月間掃除係だ!」
それは謝罪。
海賊の船長にも関わらず、迷惑をかけたと謝罪し、部下に罰を与えたのだ。
通常の組織であれば普通の事だが、相手は海賊。
そのような常識が通用するとは思いもしなかった。
「それでボウズは公爵からの遣いか?」
「いや、俺はコッツ半島のディヴェラにいるラッセルって人に手紙を届けに来たんだ。」
「ディヴェラか。それなら目と鼻の先だな。ちょうどオレたちも帰るところだし、詫びと言っちゃなんだがディヴェラに滞在している間、飯と寝床は提供させてもらうぜ。」
「……良いのか?」
「おう。このバカが迷惑かけたんだ。こんくらいはさせてくれや。」
更には迷惑料としてディヴェラにいる間の生活を保証してくれると言うのだ。
口調こそ荒くれといった感じだが行動は非常に良識的であり、俺はある疑問を口にせずにはいられなかった。
「こういう聞き方は悪いと思うが……船長さん、あんたら海賊じゃないのか?」
「海賊……海賊か。」
「その通り!なんたって船長は泣く子も黙る「おめぇは黙ってろ!」へぃ……。」
彼らこそがアルステッドが言っていた海賊では無いのだろうか。
部下は自信満々に肯定するが、船長の方は微妙そうな表情で逡巡する。
彼らは一体何者なんだ?
海賊問題の本質に関わる立場に当たるのか?
ともあれ今は彼らに同道し、話を聞くしかない。