生き延びる事を最優先に
グランマと話をした翌日。
「リョータ?元気ないのー?」
「リョータ?暗い顔してどうしたのー?」
「イーリス、イーシャ……。」
朝食を摂っていると二人が声を掛けてきた。
昨夜、手紙の配達を頼まれてから陰鬱な気持ちは晴れずにいたが、彼女たちもそんな雰囲気を感じ取ったようで心配そうだ。
別に隠す必要もないので、手短に事情を説明する。
「実はコッツ半島って言う海賊の根城に行くことになってさ。」
「そうなのー?」
「それなら私たちも一緒に行って良いー?」
「ダメに決まってるだろ!?」
「えー。」
「そんなー。」
すると二人は俺に付いて行きたいと言い出した。
これから危険地帯に赴くと言う事を正しく理解しているのだろうか。
あたかも散歩に行くかのような軽々しさで同行を申し出る彼女たちに、思わず声を荒げて拒絶する。
それを聞いた二人は残念そうに肩を落とすが、仲間の安全の為にもこればかりは認める訳にはいかない。
流石にコッツ半島の住人は全員海賊で至る所に徘徊している訳ではないだろうが、それでも危険な事に変わりは無いのだから。
「とにかく、二人は無事に帰って来れる事を祈っていてくれ。」
「「はーい。」」
明に、暗に、二人を連れて行かないと宣言し、話題を変える。
「そういえばグランマとオルガノは?」
「グランマは出かけててー、」
「オルガノはその付き添いー。」
「今日もなのか。」
「毎日そんな感じだからねー。」
「詳しくは聞いてないけど、なんか忙しそー。」
どうやら今朝もグランマとオルガノはいないようだ。
俺に手紙の配達を頼んだ彼女が何をしているのか気になるが、今は我が身の安全を考えなくては。
余計な事を考えていたせいで海賊に見つかって、もしくは戦闘中に集中力を欠いて殺されたとあっては死んでも死にきれない。
まぁそもそも死ぬつもりは無いが、それでも生き延びる事を最優先に考えなくては。
「それじゃ、行ってくるよ。」
「行ってらっしゃーい。」
「気を付けてねー。」
そして生き延びたうえで、海賊の問題を理解する。
グランマは俺の命を危険に晒してでも、この問題を理解できるように配達を任せたのだろう。
そう思いたい。そう考えたい。
ただ単に、特に理由もなく危険な地域に手紙を届けてほしいだなんて頼むような人ではないと信じたい。
そう解釈しながら、俺はイーリスとイーシャに見送られて『差し伸べる手』の拠点を後にする。
空は曇り、空気は湿っていた。
この後、雨が降るかも知れない。
「ダメって言われたけどー」
「やっぱり行きたいよねー?」