実体験をしながら学ぶ方が良い
グランマの頷きは、なんとなく彼女に認められたような感覚を抱かせた。
『差し伸べる手』のリーダーとしてではなく、一人の人間として。
「それじゃあ明日、手紙を届けに行ってもらいたいんだ。」
「手紙?」
「えぇ。北の方、コッツ半島にいる にね。」
そして彼女は俺に手紙の配達を頼んできた。
しかし届け先は北の、半島……?
「一応確認したいんだけど……」
「なんだい?」
「そのコッツ半島って、海賊の根城になってる所じゃないか?」
「そうだよ。」
「そうだよ!?」
恐る恐る確認すると、届け先は海賊が跋扈する危険な場所だった。
しかしグランマは何ともないように俺の質問を肯定する。
ついさっき、強い海賊が沢山いるって話をしたばかりにも関わらず、そんな危険地帯に手紙を届けてほしいと頼んできたのだ。
驚愕のあまり、思わず素っ頓狂な声でオウム返ししてしまった。
「それと、もしも襲われたらアレを使うんだよ。ちょっと待ってな。」
「アレ?」
グランマは防衛用の道具を取りに部屋を出る。
一体何を持ってくるのかと思いながら待っていると、彼女は再び入室し、
「ほら、これを持ってお行き。」
「これは……」
布で包まれた細長い物を渡された。
縛ってあった紐を解き、その中身を露わにすると、そこにあったのは……
「いや訓練用の木剣じゃん!?」
「そうだよ。それと、そっちの持参した剣は抜いたらダメだからね。」
「はぁ!?なんで!?」
しかも攻撃力の高い、と言うよりも木剣よりはマシな剣を振るう事も禁じられた。
そんな状態でどうやって戦えと言うのか。
むしろ自殺しに行けとすら言われているのではないか。
そう思わずにはいられない扱いだ。
さっき認められたと感じたのは勘違いだったかも知れない。
「わたしの口から説明してもいいけど、海賊の問題は複雑で根が深いからね。あんたが実体験をしながら学ぶ方が良いんだよ。」
「その実体験で死ぬ事になると思うんだけど!俺はジャックみたいに強くはないんだよ!」
「仮にジャックに手紙を届けさせるとしたら、剣を没収した上で手錠と足枷を着けて送り出すね。」
「手錠!?足枷!?」
「さて、それじゃあ明日は早いだろうから今日はもうお休み。」
「え?………ちょ、待っ!」
てっきり俺が強さも込みで新リーダーに任命されたと、グランマは勘違いしているのかと思い、ジャックを引き合いに出したら更に信じがたい事を言い出した。
彼女には強敵を相手にした弱者にハンディキャップを設けて戦わせる趣味でもあると言うのか。
困惑の渦中にあった俺が説明を要求しようとした頃には、彼女は部屋を後にしていたのであった。