本気で海賊を討伐するつもりかい?
重苦しい雰囲気の部屋にノックの音が響く。
アルステッドの家族との確執に触れそうになった状況で、それは福音にすら聞こえた。
「食事の時間だよ。若様も食べて行くんだろ?」
「む、もうそんな時間か!馳走になろう!」
気が付くと日は沈み、グランマが開けた扉からは良い匂いが漂ってきていた。
俺は彼女の誘いに乗ったアルステッドと共に食堂へ向かう。
「リョータ、食事が終わった後にちょっと話をしたいんだけど、時間を貰っていいかい?」
「別に構わないけど、ここじゃダメなのか?」
「そうさね、少なくともイーリスとイーシャ、それとオルガノには聞かせる話じゃないね。」
「えー、気になるー。」
「リョータ、何か怒られるような事でもしたのー?」
「え!?身に覚えが無いんだけど!?」
「最初はそんなものだ……。」
「はっはっは!オルガノは一時期何をするにもおっかなびっくりになっていたな!」
「安心しな。別に叱ろうって訳じゃあないよ。」
作戦会議の時とは打って変わって和やかな雰囲気で時間は進む。
「「ごちそー様でしたー!」」
「お粗末様……。」
そして食事を終え、各々は食器を片付け、部屋に戻った。
俺もまた部屋に戻り、何の話だろうかと考えながらグランマを待つ。
「ご馳走さまでした!今日も実に美味だった!」
「それは何よりだね。」
「それでは私は失礼する。」
「アルステッド!」
一方その頃、最後まで食堂に残っていたアルステッドも帰路に就こうとするが、グランマに呼び止められる。
「しつこいようだけど、あんたは本当にこのままで良いと思ってるのかい?」
「それは…………」
「わたしゃね、相手が悪い子だったらお仕置きするけど、迷ってる子なら話を聞くよ。」
「心遣い、感謝する。しかし……それには及ばない。」
「そうかい。それじゃ、気を付けて帰るんだよ。」
彼女はアルステッドに問い掛け、優しい声色で彼を諭す。
アルステッドは躊躇いがちにそれを断り拠点を出て行った。
「さて、待たせたね。」
「大丈夫、そんなに待ってないから。」
「あんたはラディウム公の依頼でここに来た。そうだね?」
「あぁ、間違っていない。」
詳細は話していないが、と言うか俺もここに来るまでは聞いていなかったが、ラディウムまで来た理由はグランマが述べたもので合っている。
「で、その依頼ってのは海賊に関してだ。」
「知ってたのか?」
彼女はぴたりとアルステッドから頼まれた事を当てて見せた。
と言っても、ラディウムで生活しているのであれば多かれ少なかれ海賊の影響を受けてはいるだろうし、そこから分析したのだろう。
「軍隊が帰ってこなかった事もね。」
「そんな事までか……!」
しかし更に出てきた問いには驚愕させられた。
海賊の問題がある事までは知っていてもおかしくは無いが、討伐軍が敗北したことは秘匿されているはずだ。
噂程度なら商人間で広まりつつあるが、彼女の言い様は噂を語るそれではなく、確信を持っているものだった事も俺の驚愕を助長した。
「なぁ、リョータ。あんた本気で海賊を討伐するつもりかい?」
「え……?」
彼女の問いに俺は頭に疑問符を浮かべる事しか出来なかった。