弟が一人いる
大まかな作戦を決め、細部を詰めようとしているものの……
「少数ならともかく、大人数で潜入しようとしては流石に露呈するでしょう。」
「かと言って首領の実力は未知数だし、拠点内のどこにいるか探し当てなくちゃならないんだよな……。」
「加えて脱出時の問題もある。暗殺に成功したとしても足早に逃げれば怪しまれ、潜伏を続けたとしても隠れきれる保証はない。仮に捕縛したとしても海賊相手では人質として使えるかも分からん。そもそも規則性のない行動をされるのだから暗殺か捕縛をする際の状況が全く想定できないのもネックだ。」
考えれば考える程に思考の沼に嵌っていく。
不確定要素が多く、まともに計画を練る事が出来ないのだ。
「そうだ、作戦の話からは逸れるが、今日街を歩いていた時にダイアンって宿屋の親父に連れられて飯屋に行ったんだ。そこで聞いた話なんだが、討伐軍が敗北したって噂が商人の間で流れているらしいぞ。」
「それは本当か!?」
「あぁ。人の口には戸が立てられないし、この噂はもっと広まるかも知れない。」
「やはり隠し通すのは難しいか。しかし、それにしても予想よりも随分と早いな……。ベック!」
「はい、公爵閣下に報告して参ります。」
難題を前に行き詰っていたので話題を変え、今日仕入れた情報を共有する。
アルステッドも噂が広まること自体は予想していたようだが、その速度は予想外だったようだ。
海賊が跋扈する状況では、商人たちも生き残って利益を得る為に必死と言う事だろう。
彼は顰め面で己の目付け役の名を呼び、ラディウム公へと言伝を命じた。
「そういえば……」
ダイアン兄弟から聞いた噂を伝えた後、ふと気になったことを質問してみる。
「アルステッドって兄弟とかいるのか?」
そう、貴族の子息と言えば大体、兄弟姉妹がいるイメージがある。
理屈の面でも貴族の子供が一人しかおらず、何らかの要因で死亡してしまった場合、跡継ぎが不在となるのだから複数人子供がいるであろう事が考えられるのだ。
「……兄弟か。あぁ、自身の考えを以て行動できる優れた弟が一人いる。」
「へぇ、行動的なアルステッドからも優れているって認められるって事は凄い奴なんだな。」
「あぁ、あいつは…………あいつは私には勿体ないほど出来た弟だ……。」
返ってきた答えは弟がいると言うものだった。
しかし彼は弟の事を誇らしく思っていると語るも、どこか重々しい雰囲気を纏っている。
創作物であれば継承権を巡って争っている場面をよく見るが、何かそれに近しい確執でもあるのだろうか?
気になるところだが、これ以上話を聞く事は憚られた。
父親と言い、弟と言い、彼は家族に対して闇を抱え過ぎだと思わざるを得ない。