火急の知らせ
親と子として、決定する者と従う者として、アルステッドは葛藤を抱えている。
それは普段の振舞いからは見て取れないが、おいそれと触れてよい物ではないだろう。
空気を換えるためにも、俺はこれ以上外部の協力を求める意見を出すよりも別の作戦を提示する事にした。
「うーん……。有効かどうか分からないけど、海賊の首領を捕まえるなり暗殺するなりするのはどうだ?」
「ふむ、最小限の労力で最大限の成果を得ようと言う訳だな!確かに悪くは無い!」
「前にフリードが立てた作戦の二番煎じだけどな。」
大人数を擁していると言う事は長所にもなるが、短所にもなり得る。
人数が多いと言う事は、それをまとめるだけの能力を持ったリーダーが必要不可欠だ。
恐らく海賊が精強なのは個々人の強さや戦術もあるだろうが、それ以上にリーダーの統率力が肝だと思う。
以前戦ったジョセフら共和国軍も数が多く攻めるのが大変だったが、リーダーのジョセフが捕らえられたら一気に瓦解した。
それならば海賊にも同じ事が当てはまるのではないだろうか。
「悪くは無い!が、頭を欠いた海賊の動きは……」
「あぁ、仮に成功した後の事を考えると、これが本当に良いアイデアなのか悩ましいんだよな……。」
一方でアルステッドが言葉に詰まったように懸念もある。
共和国軍はすぐさま投降してくれたが、海賊だとそうもいかない可能性が高い。
特にリーダーの統率から外れてバラバラに略奪を働かれたら、逆に今以上に被害が増える事が考えられるのだ。
「それに仮に実行するとしても、どうやって海賊の拠点に潜入して首領を捕まえるか暗殺して脱出するか、問題は山積みだ。」
「数多の海賊を従える程の人物とくれば、恐らくは個人としての力量もかなりの物だろう!」
首領がどこにいるかが分からない。
首領の強さがどれほどなのかが分からない。
首領を処理した後に海賊たちがどう動くかが分からない。
あまりにも不確実で不安定な作戦だ。
フリードなら諜報と策謀で準備を整えて実行できただろうが、ジャックならば正面切って海賊と戦っても勝てるかも知れないが、俺にはそれが出来るだけの能力は無い。
「若様、少々よろしいでしょうか。」
「む、ベックか。どうした?」
「火急の知らせが。こちらへ……。」
アルステッドと話をしているとドアがノックされ、僅かに顔を蒼褪めさせたベックが入室してきた。
彼はアルステッドに伝えなくてはならない事があると述べて部屋を出る。
一体何があったのかと思いながら待っていると……
「なんだと!?それは本当か!」
扉越しにも伝わってくるほど、驚愕を含んだ彼の叫び声が聞こえてきた。