妙な噂を聞いたんだ
「まぁ手伝うつっても、公爵様の兵士たちが海賊どもを潰してくれたら全部解決なんだけどな。」
「そ、そうだな……。」
ダイアンが海賊討伐について言及し、俺は冷や汗を流しながら同意する。
討伐に向かった兵士たちが全滅した事は機密情報。
ここは何も知らない体で会話をしなくてはならない。
「王都の方じゃ反乱があって兵を動かせないとか言ってたが、もう反乱も終わったらしいじゃねぇか。いい加減、公爵様も手を打ってほしいところだよ。」
「だけどよ、食材を仕入れてる商人から妙な噂を聞いたんだ。」
「妙な噂?」
ダイアンがラディウム公への不満を漏らしていると、ライアンが声を落として噂話に話題を変える。
気になって首を傾げながら聞き返すと、彼は驚愕の答えを返した。
「なんでもこの前、兵士たちが海賊の討伐に行ったらしいんだ。」
「そうなのか?それだったらもう海賊はいないって事か。」
「いいや、それがよぉ……」
ライアンの語った噂話を聞いたダイアンは暢気に喜ぶが、それに水を差すように彼は話を続ける。
「なんでも兵士たちは負けちまったらしいんだよ。その商人は誰も戻ってこなかったって言ってたぜ。」
「おいおい、そいつぁ本当か!?」
「あくまで噂だよ、ウ・ワ・サ!もしも本当だったらもっと海賊どもが暴れてるだろ。」
「それもそうか!なんだよ、脅かしやがって。なぁ、リョータ?」
「あぁ……。そう、だな……。」
彼の耳にした噂、討伐軍が海賊に敗れたとの情報は真実そのものであった。
ライアンは自身の話を噂だと念を押し、ダイアンもホッと胸をなでおろすが、俺は曖昧に同意する事しか出来ない。
噂レベルとは言え、まさか情報が広まっているとは思わず肝が冷える。
今のところは商人間の噂程度で済んでいるが、遠くないうちに広まってしまうだろう。
「それに陳情に行った連中が言ってたんだが、『今しばらくすれば海賊の問題は解消する。それまで待つように。』って公爵様の御触れがあったらしいんだよ。」
「へぇ、なんか考えでもあんのかねぇ……。」
それって俺を当てにしてると言う事ではなかろうか。
あまりにも責任が重大過ぎる。
ラディウム領に来るまでは俺が呼ばれる程度だし、大した問題ではないと思っていたが、いざ直面してみると八方塞がりのどん詰まりだったのだ。
期待は重く、課題は大きく、早急に解決しなくてはならない。
先程食べた料理が理由か、精神的な重圧が理由か、ほぼ間違いなく後者が原因だが、胃のあたりが重く感じられる。
「おーい、ライアン。注文いいかー?」
「はいよー!それじゃオレは戻るが、頑張ってくれよ。兄貴たち。」
「おう、お前も頑張れよ。」
会話の中で得られたものはアイデアではなく、より一層の重圧と流布された噂話と言う問題だけである。
最終的にライアンが他の客に呼ばれて仕事に戻り、俺たちも会計を済ませて店から出るのであった。