真っ当に生きていけるようになったんだ
料理をテーブルに置いた店主に、彼が先程の発言の中で気になった点を問う。
「『兄貴は』って事はあんたは何か困ってるのか?」
「おうよ。連中、旅人は襲わねぇがでっけぇ船を襲うんでよ。」
「それはさっき聞いたな。」
「そのでっけぇ船ってのは大陸、つまりは王国本土と行き来してるんだよ。で、その船の荷が奪われるから、こっちには無いような、運ばれてくる作物も奪われて値段が高騰してんだ。」
帰ってきた答えは、親父と話している際に予想したものと同じだった。
アルステッドは海賊たちは大勢いると語り、その人数を養うのには相応の物資が必要になり、それは旅人などの実入りが少ない船ではなく、商人が扱うような積み荷が大量に載っているであろう船を襲う。
となれば被害に遭うのは俺みたいな一般人ではなく、商人と彼らと売買する人々だ。
「おかげで一部の料理は出せねぇし、出せても大した売り上げになりゃしねぇ。幸い、今んところは助成金でどうにかなっちゃいるが、この先どうなるかは分からねぇからな。」
店主もまた間接的に被害に遭っており、お手上げと言わんばかりに両手を挙げて首を横に振る。
彼の言った助成金とは、恐らく被害者に配られているだろうが、その数を考えるとラディウム領の財政に多大な影響を及ぼしている事だろう。
時間を掛けるつもりは無かったが、それでも急がねばならないと俺は胸中に僅かな焦りを覚える。
「ほーん、大変だなぁ。」
「兄貴、他人事みたいに言わねぇでくれ。」
「客。」
「ちっ、ありがとよ!お兄様!」
「うへぇ、気色悪ぃ!」
俺の焦りを知ってか知らずか親父は頬杖をついて気のない返事をし、弟に咎められるもこちらを親指で指差して恩着せがましく一言発する。
それを聞いた店主は舌打ちをして甲高い声で親父に感謝を告げ、それを聞いた親父は鳥肌を立てて身震いしていた。
「冗談はともかく、俺みたいな小料理屋の店主でさえ困ってんだ。他の商人連中なんて比べ物にもならねぇだろうよ。」
店主は真面目な顔をして親父から俺に向き直り、現状の困窮を訴える。
「こっちに来る前はよ、オレも兄貴もまともな飯を食えない、寝床は寒ぃ、そんな生活を送ってたんだ。でもこっちに来て、普通に飯食って、ベッドで寝れるようになれた。他の連中だって似たようなもんだろ。それが働いて真っ当に生きていけるようになったんだ。だってぇのに、海賊のせいでまた不安定な生活にさせられそうなんだ。だからよ、もしもあんたが海賊をぶっ倒そうって考えてんなら、協力するぜ!」
「ライアン……。オレも弟と同じ気持ちだぜ!海賊どもをぶっ潰してやろう!そういや名乗ってなかったな。オレはダイアン、弟はライアンだ。兄ちゃんの名前は?」
「二人とも、ありがとう。俺はリョータ。でもまだ解決策を考えている最中だから、もしも機会があったら頼らせてもらうよ。」
「「おうさ!」」
俺やタガミ先輩のいた時代、環境であれば一日三食、快適な住処、多彩な服飾、それら衣食住は保障されていたが、彼らはそうではないのだ。
この世界に来たことで以前よりも生活が向上した人間は多い。
後者の立場にあった彼らの願いは切実だった。