旅人を襲わない
案内された店内は閑古鳥が鳴いている訳でこそないが、昼時である事を加味すると繁盛しているという表現は出来ない程度の賑わいだった。
そして宿屋の親父を一回り若くしたような見た目の店主が、来客に気付いて俺たちを迎えるが……
「らっしゃい!……って、なんだ兄貴かよ。」
「なんだたぁご挨拶じゃねぇか。せっかく客を連れて来てやったってのによ。」
「よく来てくれたな!待ってたぜ、兄貴!」
「間違いなく親父の兄弟だな。」
親父の顔を見て残念そうにするも、客として指差された俺を視認した瞬間に掌を返す店主。
その商魂逞しさに、親父の親族であることを強く実感させられた。
そんな彼に席に通され、料理を注文した後の待ち時間で親父から話を切り出される。
「んで、何が問題なんだ?」
「うーん、どこまで話したもんかな……。」
アルステッドは討伐軍を派遣して敗北した事を聞かせる時、内密にしてほしいと言っていた。
加えて商人であれば既に海賊の被害に遭い、情報が回っている事は想像するに易い。
つまり海賊の問題自体は既に知れ渡っている可能性が高い。
それならば……
「逆に聞かせてもらうんだが、海賊に困ってたりはするか?」
「海賊?あぁ兄ちゃん海賊になんかされたのか?」
「いや、俺が何かされたって訳じゃないんだけどな。」
「だよな。あいつら旅人とかは襲ったりしねぇし。」
俺が海賊の話題を切り出すと親父は首を傾げ、質問に対して質問で返された。
何かされるどころか遭遇すらしていない事を伝えると、彼はそれに納得したように頷く。
そして彼の口から出てきた言葉に今度は俺が首を傾げる番だった。
「旅人を襲わない?」
「おう。連中、でっけぇ船しか襲わねぇぜ。やっぱ旅人を襲うよりも実入りがあるんじゃねぇか?」
旅人を襲わない海賊なんているのかと訝しんだが、確かに大規模な海賊団らしいし、それを考えると数人程度の旅人を襲うよりも商船を襲った方が費用対効果の面でも合っているだろう。
むしろ大人数を擁しているにも関わらず、個人規模の相手を襲っても割に合わないだろう。
「そんな訳で旅人が減ってる訳でもねぇから、オレは特に海賊に困らされてるって事ぁねぇな。」
「そりゃ兄貴は困らないだろうな。ほら、お待ち。」
特に被害には遭っていないと親父が話していると、店主が出来上がった料理を持ってきた。
彼は辟易とした表情で兄へと愚痴を溢す。
それは宿屋の親父の方には影響は無くとも、料理屋の店主は海賊の被害ないし影響を受けていると言うものであった。