ジャック・ベイカー
暫し考え込んだ後、レイストンは答えを出した。
「分かった。君がそこまで言うのなら、君を信じよう。マデリンは……」
「あたしゃレイストンに従うよ。小難しい事を考えるのは苦手なんでね。」
少年を取り押さえていたマデリンに意見を確認するが、彼女の答えは追従であり、
「さて少年、君には二つの選択肢がある。一つは憲兵に引き渡される。一つは我々と共に生活する事だ。前者を選ぶのであれば、忍耐を求める事は無いがその後の安全は一切保証できない。後者を選ぶのであれば、安全は保障するが強い忍耐力を求める。さて、どうする?」
最終的な決断は少年に委ねられた。
「ニンタイリョク?ってのが何かは知らねぇが、憲兵ってぇとアレだろ?棒とかでぶっ叩いて来る連中。それならテメェらと生活してやるよ。」
「口の利き方には気を付けな!」
「痛ぇ!?」
彼の答えは一つ。
憲兵に引き渡される未来よりも、レイストンたちと共に生きる未来を選んだ。
しかし言葉選びには問題があり、またもマデリンに殴られる。
「『テメェら』じゃなくて『あんたら』だよ!それと『してやる』じゃなくて『させてくれ』だ!」
「マデリンの言葉遣いもあまりキレイな物とは……いえ、何でもありません。」
「このガキよりはよっぽどマシだろう?それに無理に堅苦しい喋り方するよりもこれくらいの方が丁度良いのさ。」
一方の制裁を加えた彼女も、言葉遣いは決して穏やかな物とは言えないが、それでも幾分は少年よりマシであるし、加えて過度に言及しようものなら自身も制裁の対象にされかねない為、ロッキーは途中で口を噤んだ。
「ところで彼の事ですが、名前はどうしますか?」
「ロッキー、君が決めろ。」
「え、私ですか?うぅん……。君、何か持っていたりしますか?」
「何かって言われてもな……あぁそういやガキの頃からずっとポケットにこれが入ってたぜ。」
彼女の言葉遣いよりも、少年の事を何と呼ぶか。
その点を話題に挙げると、命名権はロッキーに託された。
どうしたものかと悩みながら、少年の名づけのヒントを探ると、彼のポケットからある物が取り出された。
それは……
「これは……金属製のタグ?少しばかり掠れていますね。えーと、『1- Bak r』。恐らくはベイカーと書かれているのでしょう。それなら君は今日から『ジャック』、『ジャック・ベイカー』と名乗るのです。」
「ジャックか。それで良いぜ。」
彼に差し出されたそれを由来に、少年の名前は決められた。
『差し伸べる手』における未来のリーダー、『ジャック・ベイカー』が生れ落ちた瞬間である。
「よしジャック!あんたが悪い事をしたら殴って教えてやるから覚悟しときな!」
「殴らなくてもいいだろ!」
「悪い事をしたんだったら罰があって当然だろう!」
とは言え、この場においてはただの悪ガキ。
彼はこれから、少しずつ学び、成長し、出会いと別れを経験しながら大人になっていくのであった。