引き取って教育しましょう
少年の言葉をマデリンが怪訝な顔で反芻し、彼はそれを肯定する。
「そうだよ。オレぁあん時、確かに野垂れ死んだと思ったんだ。けど気が付いたら知らねぇとこにいるし、腹は減るし、なんか知らねぇが生き返ってるって思ったんだよ。」
「「…………。」」
自分たちと同じように死亡からの生存を体験した少年を、レイストンとロッキーは閉口して悩まし気に眺める。
「つまりはあんたも転生者って訳だね?」
「テンセーシャ?」
「あんたみたいに死んだけど知らない場所で生き返った奴の事だよ。」
「つー事はテメェらも一回死んだのか?」
「そうだよ。それと『テメェ』じゃなくて『マデリンさん』って呼びな!」
「……クソババ痛てぇ!」
「口の減らないガキだねぇ。」
少年を抑えていたマデリンは『転生者』の言葉を口にし、彼に自身らと同じ境遇であった事と自らの名前を教えた。
しかし取り押さえられている状況にも関わらず、少年は口汚く彼女をクソババア呼ばわりして殴られる。
「で、転生者らしいこのガキをどうするんだい?」
「そうだな。転生者であるのなら、我々の同胞であるから迎え入れたいところだが……。」
「普通に邂逅するならまだしも、彼は盗みに入りました。それならば転生者と言えど憲兵に引き渡すべきでしょう。」
転生者と言う同じ境遇の少年の処遇を再度問い掛けるマデリン。
境遇だけで考えれば仲間と見なす事も出来るだろうが、彼は盗みに入った。
それを鑑みてレイストンとロッキーの二人は結論を変えず、憲兵に引き渡すべきだと告げる。
「奪う以外でどうやってメシを食えば良いってんだよ!?」
「働きなさい。」
「働くってなんだよ?オレたちの事をゴミみたいに見てくる連中から奪えば良いんじゃねぇのか?」
しかし、そもそも少年は窃盗と略奪以外の生き方を知らない。
働くと言う言葉すら理解していないその様は、生きてきた環境の根本的な違いを如実に表していた。
「君、名前は?」
「名前?んなもんねぇよ。呼ばれるとしてもガキとかゴミとかクズとかだ。」
「……家族は?」
「いねぇよ。ずっと一人で奪って食ってきた。ま、結局最後は野垂れ死にだけどな。」
ロッキーは少年に問い掛けるも、彼は『無い』以外の回答を述べる事はない。
それを哀れに思ったのか、それとも自身の信念に従ったのか、ロッキーはレイストンに一つの提言をする。
「レイストン、先程は彼を憲兵に突き出すべきだと言いましたが、撤回します。彼を引き取って教育しましょう。」
「ロッキー?それは本気で言っているのか?我々は相互に助け合い、生活している。しかし彼はただの盗人だ。とても我々に寄与できるとは思えないな。」
「はい、本気です。彼はただ少し力があって話す事が出来るだけの赤ん坊です。それならば教育を施せば真っ当な人間になる事だって出来るはずです。」
「ふむ……。」
それは少年を教育し、仲間とすると言うものであった。
レイストンは顎に手を当て、少年を仲間として招き入れるか思い悩む。