悪ガキ
「若い頃のジャックを知っているのか?」
「あぁ、もちろんさ。今よりずうっと昔、まだ『差し伸べる手』なんて小洒落た名前も無くて、組織ってよりも家族みないな人数だった頃から知ってるよ。」
見た目からしてこの世界での生活が長そうだと思ったが、彼女はどうやら想像以上に昔からこの世界にいたようだ。
たしかジャックが二十数年前から組織として活動が始まったって言ってたから、黎明期からのメンバーなのだろう。
「何せあの子が悪ガキだった頃からの付き合いだからねぇ。」
「ジャックをそんな風に言えるのはグランマだけだと思うよー。」
「悪ガキは悪ガキだよ。今でこそ落ち着いちゃいるが、昔はそりゃあ酷いもんだったんだから。」
イーシャが言うように、ジャックの事を悪ガキ扱いできる人間なんてほとんどいないだろう。
まずもって彼より年上のメンバーと会った事が無いし、三十代から四十代程度の年齢的にも子供扱いは出来ない。
「ジャックの悪ガキ時代ってどんな感じだったんだ?」
「そうさねぇ……。初めて会った時の事から話していくとしようか。あれは二十八年くらい前の事だったよ。」
彼の過去がどのようなものだったのか気になり、グランマに聞いてみると彼女は目を瞑ってしみじみと回顧を始めた。
とある街外れの一角にて……
「レイストン!盗みに入ってた悪たれを捕まえたよ!」
「くそっ!離せ!離しやがれ!」
「誰が離すかってんだい!この盗人め!」
ある女性が侵入者の年若い少年の関節を極め、地面に組み伏せて仲間を呼んだ。
少年はどうにか脱出出来ないかともがくが、びくともしない。
そうしている間に屋内からレイストンと呼ばれた壮年の男性と二十代程度の青年が現れた。
「良くやった、マデリン。」
「で、こいつはどうする?ボコボコにして憲兵に突き出すかい?」
「ふざけんなクソババア!ぶっ殺すぞ!」
「あぁん?誰がババアだって!?」
「はぁ……、少し落ち着け。」
女性はマデリンと呼ばれ、自身の意見を交えながら少年の対処をレイストンに尋ねる。
それを聞いた少年は暴言をまき散らし、先程よりも激しく身をよじって暴れるが、マデリンは更に体重を乗せて動きを封じた。
その様子にレイストンは呆れ、溜め息を吐きながら宥める。
「その子供は憲兵に引き渡す。が、暴行を加える必要は無い。」
「うちに盗みに入ったらどうなるか、思い知らせてやらなくて良いのかい?」
「レイストンの言う通りです。」
「なんだい、ロッキーまで。」
レイストンは彼の処遇を述べるも、マデリンは不服そうだ。
しかし二十代程度の青年、ロッキーもまたレイストンに同意する。
「この世界の法に詳しい訳ではありませんが、少なくとも我々が私刑を行う事は善い事ではないかと。それに憲兵に引き渡したところで良くて孤児院行き、可哀そうですが悪ければ奴隷商に売られるか餓死するまで牢屋で放置でしょう。」
「チクショウ……。死んだと思ったら生き返ったってのに、ンな事になるたぁツイてないぜ……。」
「ん?今なんて言った?『死んだと思ったら生き返った』?」
少年はこのまま憲兵に引き渡されるかに思われたが、彼の口から零れ落ちた一言が運命を変えるのであった。