この下ない敗北でしたね
機密情報も含めてアルステッドに相談されたものの……
「悪いけど、解決策なんて全く思いつかないぞ。」
「構わん。今すぐにとは言わんさ。」
「ですが貴方にも方策を考えて頂きたいですね。その為にも色々と融通させて頂きますので、何かありましたら若様に言って下さい。」
「うむ。リョータの名を記した書状を用意しよう。」
敵は戦いなれた海賊の大軍。
加えてこちらは敗戦によって戦力に乏しい。
どうやって連中を討伐すればいいのだ……?
全く作戦が思い浮かばない中、圧し掛かる期待が重い。
今からでも別の人材を派遣してもらうように頼むか?
いや、リーダーの俺ですら解決出来ないとなると『差し伸べる手』がラディウム領内で活動しづらくなる。
最悪の場合、フリードの援助も打ち切られる可能性すらある。
「……分かった。何か考えてみるよ。」
「ありがたい!感謝するぞ、リョータ!」
「私からも感謝を。いつまでも海賊が蔓延っていては若様が王位に就くどころではないので。」
それに出会ったばかりとは言え、ラディウム領の仲間が海賊に襲われる危険だってあるし、海賊の問題を聞いた以上、ラディウム領の人々が脅かされているのを見て見ぬふりするのも目覚めが悪い。
やる気が無かった訳では無いが、真剣に案を考えなくては……。
「とはいえ正攻法で失敗してるんだよなぁ……。」
「ううむ……。奴らはラディウム領の北部にある半島を拠点にしているのだが、攻め入ったものの兵の大半は戻らず、指揮官も帰らなかったのだ。今のところ被害は海上のみに止まっているが、将来的にはどうなるか分からん。」
「この上ない、いえ、この下ない敗北でしたね。」
「状況が最悪過ぎるな。どうやって海賊に勝てば良いんだ……?」
考えようともすぐに思い浮かぶ訳も無し。
不幸中の幸いと言えば、海賊が略奪の為に大挙して街に押し寄せては来ない事くらいだ。
アルステッドたちと頭を悩ませていると『コンコン』とドアがノックされる。
「話は終わったか?グランマが帰ってきて飯の準備も出来た。」
「オルガノか。分かった。」
「腹が減っては策も思い浮かぶまい。まずは夕餉だ!」
気が付けば日も傾き、ドアの隙間からは良い香りが漂っていた。
アルステッドは席を立ち、作戦会議はお開きとなった。
そのまま部屋を出て食堂へと向かうと、そこにはイーリスとオルガノに加えてふくよかな体系の初老の女性と、イーリスによく似た、しかし髪型は二つ結びと言う差異のある女性が席に着いていた。