海賊に悩まされている
オルガノに通された客室で席に着き、アルステッドは話を始める。
「さて、では単刀直入に言おう。我が領は海賊に悩まされている。」
「海賊?」
海賊と聞くと、某少年漫画を思い出すが、彼が問題視しているのはきっとそんなに甘い存在ではないだろう。
普通に軍隊を派遣して討伐すれば良いのではないかとも思うが、一領主が未だに解決出来ていないのだから恐らくは普通の海賊では無いと考えられる。
「うむ。二、三隻程度の規模であれば我々の軍で対処できるのだが、常に十数隻で行動しており数が多いうえに逃げ足が速いのだ。」
「十数隻!?」
一隻あたりに何人の海賊が乗っているかは知らないが、どれほど少なく見積もっても合計で二百人以上はいる事になるだろう。
それほどの規模の敵が襲い掛かってくるならば、確かにかなりの問題だ。
「通常、どのような組織であれ規模が大きくなるほど動きが鈍くなるものだけど、連中ときたら連携も機動力も尋常じゃないんですよね。」
「おかげで数が勝ろうとも被害が嵩むばかりなのだ。」
ベックはため息を吐きながら補足をし、アルステッドもまた頭が痛いと言わんばかりに眉間を抑える。
敵は多数である上に戦いなれており、こちらが戦力を増やしても今度は連携が問題になる。
普通に数を用意して戦っても勝てないとなると、軍事だとか海戦に関して素人の俺には意見の出しようも無いのだが。
いや、いっその事海の上と言う不利な場所で戦う必要は無いのではないだろうか。
数百人規模の海賊ならば拠点があっても不思議ではない。
その拠点を攻めれば勝てるのでは?
「そしてここからは内密にしてもらいたい話なのだが……」
海賊の根城を攻める案を出そうかと思うと、アルステッドは声のボリュームを下げて重々しく語る。
内密の話、一体何を言い出すのだろうか。
「実は以前、大規模な討伐軍を派遣したのだが敗北を喫してな。おかげでジョセフの反乱にも兵を出す事が出来なかったのだ。」
「!?」
既に一度敗北していた。
その情報は俺の表情を歪めるのに足るものだった。
海賊問題の解決の為に呼ばれた訳だが、明らかに分不相応だろう。
一応はトリア公の説得やジョセフの捕縛に関わってこそいるが、決してラディウム領の問題を解決できるほどの能力や適性は示していない。
フリードは一体何を考えて俺を推挙したのか。
「もちろん距離的な問題もあったが、それ以上に派兵をしては領内の治安維持にも問題が出た。それ故に装備の融通のみで手を貸していた訳だ。それすらも、度々襲撃されていたがな。」
俺の困惑と混乱を他所に、アルステッドは今も尚、海賊による被害が出ていると語るのであった。