貴殿も転生者なのだろう?
俺が拠点と思しき建物を見て呆気に取られていると、近くで名前を呼ばれる。
「貴殿がユーキ・リョータであるか!」
「え?いや、違います。」
俺ではない通行人を相手に。
「むむ、違っていたか。それは失敬。」
「若様、いい加減中で待ちませんか?もう六人目ですよ……。」
「いいや、私の勘が言っているのだ!彼は今日こそ訪れ、我が懊悩を解消してくれると!」
「それ、昨日も一昨日も聞いたんですけど……。」
「なに、細かい事は気にするでない!私は気にせんぞ!」
「公からお目付け役の任を賜ってる以上、若様の奇行を放置したくてもする訳にはいかないんですよ。」
俺の事を待っていたようだが、なんとなく話しかけづらい。
恐らくは『差し伸べる手』の関係者だと思うが、僅かに聞こえてきた『お目付け役』と言う言葉を鑑みるに貴族などの身分の人間だろうか。
目の前で人違いをした事を含め、どのように声を掛けるか悩んでいると向こうから話しかけてきた。
「貴殿がユーキ・リョータであるか!」
「若様、手当たり次第に声を掛けたところで「はい。俺がリョータです。」……本人!?」
嘘を吐く必要もないので素直に名乗ると、お付きの人物は呆れ顔から一転、目を丸くして驚いていた。
「おぉ、貴殿がフリードの言っていた協力者だな!私はアルステッド・デッケン・ラディウムだ!よろしく頼む!」
「よろしくお願いします。……ラディウム?」
どうやらフリードから話が通っているようだ。
先程の様子から若干不安を覚えていたが、この様子なら取り敢えずは大丈夫だろう。
しかし安堵以上に、聞き覚えのあるフレーズを耳にして思わず聞き返してしまう。
「うむ!現ラディウム公は我が父である!」
「先ほどは失礼致しました。ご機嫌麗しゅうございます。アルステッド様。」
「そう畏まらずともよい。気軽にアルスと呼んでくれ!」
「しかし……」
「貴殿も転生者なのだろう?」
「!?」
このラディウム領を治める貴族の息子にして次期国王候補。
その地位の人物に対して礼節を欠いたと、俺は顔を青くして取り繕う。
しかしアルステッドは気にした様子もなく、むしろ気軽に接してくれと言う。
ありがたい申し出だが、それは断らざるを得ない。
そう考えて言葉を選んでいると、またしても驚きの情報が飛び出してきた。
「え、貴殿『も』、って……?」
「おっと、勘違いさせたのなら訂正しておこう。私は現地の生まれだ。だがラディウム領では転生者を保護する政策を採っている。何せ初代様は元々転生者だったのだからな。」
そう、彼の言った『貴殿も』と言う点。
同調を意味する接続詞に、思わず素の表情と口調で言葉が漏れ出す。
しかし『俺と同じ』と言うニュアンスではなく、『彼の周囲の人間が』と言う意味合いだったようだ。
それでも初代ラディウム公は転生者だったと言う情報は驚愕に値するが。
「転生者はこの世界にはない発想や知啓をもたらしてくれる事が多々ある。故に、転生者は厚遇しているのだ。」
「そうだったのですか。」
「だから畏まらず接してくれと言っているだろう。」
「分かり……分かった。」
「それで良い!」
アルステッドから転生者に対する認識・扱いを聞き、彼の人となりの一端を知る事が出来た。
立ち振る舞いこそ貴族らしいが、思考とそれに基づいた行動は柔軟であり、決して悪人ではない。
それならば、と俺は口調を改めると、彼は腕を組んで満足そうに頷くのであった。