行ってくれるかい?
フリードから会議の顛末を聞き、改めて感想を述べる。
「王位を押し付けあうって、逆の状況ならともかく、普通そんな争いするか?」
「王位に就いたら内乱で荒れた王国領の復興をしなくてはならない。しかしレアン公は自分の領土を運営出来ていればそれで良い。ラディウム公は自分の領土の問題で手一杯。結果的に王位を相手に押し付けあう形になった訳だね。」
「他の貴族はどうしてたんだよ。トリア公とかさ。」
「彼は今頃、ゲーランの武勇伝を謳った吟遊詩人の話を聞く事とエウリア大陸との交易で忙しいみたいで、今回の会議には名代を派遣していたんだ。その名代が言うに、トリア公は『口出しをするつもりは無い。結果に従う。』との事だそうだ。」
王様って権力あるし、自分の思うように国を動かせる。贅沢だって出来るだろうから、その地位の奪い合いになると今まで思っていたが、俺が考えていた以上に複雑なようだ。
そして複雑な情勢に一部の権力者の無関心が加わり、結果的にはグダグダだ。
多かれ少なかれ揉める事は想像に難くないが、方向性が想像と違い過ぎる。
「少しは真面目に関与するべき案件だというのに、何様のつもりだろうね。」
「前者はともかく、後者はこっちから持ち掛けた話だろ……。」
「結論を言えば他の貴族も似たような方針さ。と言っても大半は次期国王の機嫌を損ねないように風見鶏に徹しているだけだろう。」
元々は戦争終結に向けてトリア公の協力を得る為に交渉したのだから、許しても良いだろう。
まぁ流石に王位継承者を選ぶ会議には顔くらい出すべきでは、と思わなくもないが。
そしてトリア公と言う大貴族が意見を述べなかった結果、他の貴族は保身の為の沈黙を選んだ、と。
「あぁ、それと、この会議内容は機密事項だから他言無用だよ。」
「え、それって俺が聞いても大丈夫なのか?」
一応、協力者ではあるし『差し伸べる手』のリーダー、言うなれば一組織の代表ではあるが、それでも機密扱いされるような情報を耳にする立場ではないように思われる。
「おっと、リョータは重要な機密を知ってしまったのか。」
「は?知ってしまったも何も、お前が話をしてきたんだろ?」
俺の問いかけに対してフリードは白々しく目を見開いて驚いたような表情をするが……
「これでリョータも我々の側になった訳だ。となれば問題解決に協力するのも当然の事だよね。」
「お前、まさか……」
彼はニッコリと笑い、語り掛けてくる。
その笑顔は善人のようでありながら、悪魔のそれだった。
「ラディウム領の問題解決の為に、行ってくれるかい?」
「……ちなみに断るって言ったら?」
「機密情報を不当に保持したことになるから、王国の法律に当てはめて裁判かな。」
「行けば良いんだろ!行けば!」
「本当かい?助かるよ。」
「覚えてろよ、フリード……!」
退路を断ち、肯定以外の選択肢を奪ってから質問をする眼前の悪魔に憤りながら、俺のラディウム領行きは決定したのであった。