継承の行方
フリードからラディウム領行きを打診される三日前。
レアン領では王位継承者を決めるための会議が開催されていた。
そこではレアン公とラディウム公が議論を交わす。
「レアン公!貴殿は唯一残った正当な王族だろう!であれば貴殿が王位を継ぐのが道理と言うものだ!」
ラディウム公は口角泡を飛ばして激しく捲し立て、
「ほっほっほ。王族の血を引いた、と言う点で言えば貴殿の父祖もまた当てはまるのではないかな?」
対するレアン公は整然と反論を展開する。
「何代前の話をしている!初代様以降、王家の血は混ざっていない!」
「しかしワシ、倅がおらんからのぉ。ワシが王位を継いだところでワシがぽっくり逝ったらいよいよ王家が危ういぞい。それと比べてお主には倅がおるじゃろうて、ラディウム公。」
「ええい、ああ言えばこう言う!私は領土にも喫緊の問題を抱えているのだ!王位など継いでいる余裕があるか!」
レアン公は年齢と後継者を理由に王位継承を拒絶し、ラディウム公は血の薄さと自領の問題を理由に王位継承を拒絶する。
彼の理由を聞いたレアン公はそれを恣意的に解釈し、自身の髭を撫でながら議論の主導権を握りにかかった。
「ふむ、つまりは貴殿の領土の問題さえ解決できれば王位を継承する事もやぶさかではないと。」
「そのような事は言っていない!そもそも血筋の件もあるだろう!」
「そうじゃ、貴殿の倅にワシの娘を嫁がせよう。そうすれば血統の問題もあるまい。」
「それなら他の家の物に嫁がせて王位を継承させればいいだろう!」
「薄くとも王家の血を引いている貴殿の倅こそが最適じゃよ。それに、初めての社交界で恥を晒しそうになったところを助けてもらったのは誰だったかのぉ。」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ラディウム公はレアン公の理屈に反論しようにも、否定する為の材料もなく歯噛みする。
それを見たレアン公は笑みを浮かべながらも、議論に決着をつけるべく更なる追撃を繰り出した。
「よもや恩を仇で返すような不心得者はおらんよなぁ。」
「この狸爺め……!分かった!私の領土の問題を解決したら息子に王位を継がせる!それでいいだろう!」
「善哉善哉。異論は無いぞい。」
昔の恩義を持ち出しされたラディウム公は握り締めていた拳を開いて両手を挙げ、レアン公の提案を受け入れる。
彼の降参にレアン公は満足げに頷き、議題となっていた王位継承問題は一応の決着を迎えた。
「と言う事があってね。」
それがフリードから聞かされた会議の概要であった。