お前以外に誰がいる
「いやぁ、死んだかと思ったぜ!」
「それはこっちのセリフだよ!イノシシか、あんたは!」
「だっはっは!よせやい、照れるぜ!」
「褒めてない!」
結局、俺は葛藤の末にジョセフを殺さなかった。
執務室に備え付けられていたカーテンを切り、それを使って彼を縛ったのだ。
その後、URPたちとの戦闘を終えた兵士たちも執務室に合流し、倒れたジャックとニコライを運んで王城から脱出した。
市街地で攪乱作戦の指揮を執っていたゲーランは敵を圧倒し、城門の解放まで成し遂げたようで、助けに行く必要もなければ隠し通路を使って帰還する必要もなかった。
フリードたちも敵の防衛部隊と戦闘を繰り広げていたが、ジョセフを捕まったとの報が広まると防衛部隊は武器を捨てて投降した。
ジョセフは牢に繋がれ、裁判を待つ身となっているらしい。
王都での戦いは大きな犠牲もなく、無事に生きて帰る事が出来たのだ。
ジャックは王城潜入の翌日には目を覚まし、医者にかかり、5日後には俺たちと共にワシャールに帰還した。
銃弾を受けておきながら普通に戻ってきた時は夢でも見ているのかと思ったほどだ。
しかし全ては現実であり、独裁者がいなくなった事を祝して『差し伸べる手』のみんなで宴を催している。
「つってもまぁ、流石にちょいと休ませてもらうぜ。アレだ、フリード曰くチョーキリョーヨー?だったか?」
「長期療養?」
確かに生きて帰ってくる事は出来たが、大怪我をしていたのは事実だし、ダメージが蓄積している状態でもおかしくは無い。
なんなら宴に参加するよりも休むべきだと思うが。
「そうだ。そんな訳で『差し伸べる手』の事は任せたぜ、リョータ。」
「は、俺が!?」
そんな事を考えていると、ジャックが酒を片手に肩を組んできて、とんでもない事を言い出した。
酔いが回って馬鹿な事を言っているんじゃないだろうな?
「むしろお前以外に誰がいるってんだよ。オレの仕事の手伝いだって立派にこなしてたろ?それにオレはもう書類は見たくねぇ。」
「本音が漏れてるぞ。」
「おっと、フリードがうつったか?」
「あいつは漏れてるんじゃなくて隠そうとしてないだけだろ。」
「だっはっは!違ぇねぇ!」
俺の働きが評価されるのは嬉しいが、その後に零れた本音で台無しだ。
それについて言及すると、ゲラゲラ笑いながら俺の背中をバンバン叩かれる。
ジャックにはせめて本音を隠す努力をしてもらいたいものだ。
もっとも、フリードは本音を隠さないが、ジャックは本音を隠せないと言う違いはあるだろうが。
「ともあれ、だ。『差し伸べる手』の事は頼んだぜ。シンディに昔聞いた話だが、休みにゃ南の方が良いらしいからな。適当にそっちの方で休んで来らぁ。」
「分かったよ……。ジャックも早く身体を治してくれよな。」
「死ぬほどゆっくりして来るぜ。」
「どんだけ書類仕事したくないんだよ……。」
早く帰って来てくれ。
皆をまとめられるほどの能力は無いし、俺はリーダーなんて柄じゃないんだ。
今になって急に先代からリーダーのバトンを渡された時の彼の気持ちが如実に分かってきた。
きっとリーダーになりたてのジャックも俺と同じ気持ちだったんだろうな……。