切り開き、道を作る
ジャックがニコライを打倒した頃、場所は変わってジョセフの執務室にて。
「それで、何の用だね?見ての通り、私は忙しいのだ。手短に頼むぞ。」
「お前がジョセフだな?」
「いかにも。」
「マスカは包囲されている。抵抗しなければ手荒な真似はしない。大人しく投降しろ!」
相変わらず書類に向き合ったまま仕事を続けるジョセフを相手に説得を試みる。
見たところ強そうな雰囲気も無いし、俺でも勝てそうな気がするが戦わずに済むのなら、それに越した事は無い。
「断る、と言ったら?」
「力尽くでも連れて行く!」
「やれやれ……。事が済み次第、あの無能の首を切らねばな。」
あくまでも目的は捕縛だが、抵抗されるのであれば仕方がない。
拒絶の意思を示そうとしたので俺は剣の柄に手をかけ、引き抜こうとする。
それを見たジョセフはため息を吐きながら机の引き出しを開け、中から何かを取り出した。
「そ、それは………!」
ジョセフの手元には黒光りする、金属。
元居た世界ではゲームやマンガの中でしか見た事のない存在。
「銃!?」
「ほぉ、これを知っているのか?と言う事は、君も私と同じ世界の出身と言う事だな、少年。」
ジョセフは拳銃を持っていた。
俺がそれを見て驚愕を露わにすると、一方の彼もまた意外そうに目を丸くしている。
「そう緊張するな、少年。何も取って食おうと言う訳ではないのだよ。」
「転生者狩りなんてやってる奴の言う事が信じられるか!」
「ふむ、何やら認識の相違があるようだな。」
同じ異世界出身とあってか、ジョセフは雰囲気を和らげて語り掛ける。
しかしこれまでの所業から、所持している武器の格差から警戒を解く訳にはいかない。
「私は何も転生者を殺そうと思っているのではないのだよ。」
「じゃあなんで転生者を探して殺しているんだよ!」
「それは彼らが私の理想を共に出来ないからだ。」
「理想……?」
転生者を殺してまで叶えたい理想があるって言うのか?
それとも見つけ出した転生者が殺さざるを得ない程に酷い人間だったのか?
「少年、君は目的地までに山があったらどうするかね?」
「は、山?」
唐突に山の話をされて首を傾げる。
理想の話をしていたのに、どうしていきなり山の話になるんだ。
登山家にでもなりたいと言い出したりしないだろうな。
「そりゃ迂回するだろうけど……。」
「私であれば切り開き、道を作る。」
「いや、切り開くって、何言ってるんだ?」
本格的に何が言いたいのか分からなくなってきた。
山を切り開くなんて発想、普通出てこないぞ。
どれだけの時間と労力が必要になるのか、想像するのも難しい。
「人手が足りないのであれば集め、重機が無いのであれば作り出す。誰もが山を迂回しようなどと非効率だ!その非効率の妥協は人民の、国家の為にならない!そして人民を盲目にする宗教や、慣習と言うだけでのさばる貴族共など効率化の障害に他ならない!」
ジョセフは拳を握り締め、熱弁を振るう。
彼の赤い瞳がギラギラと輝き、その色もあって炎が燃え盛っているかのように見えた。
全てを焼き尽くして、鋼鉄を錬成するような炎が。