表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

第8話 死に至る病

「僕の名前は、ジムといいます。隣の村に住んでいる農夫の息子です」


 青年はジムと名乗った。僕とライカは、ジムを向かい側に座らせて話を聞くことにした。彼は未成年なので、エールではなくミルクを代わりに注文してやった。


 ジムと名乗った青年は話を続ける。


「実は僕たちの村では、1ヵ月ほど前からおかしな病気が流行っているんです。10代の若い娘ばかりなる病気です。高熱が出てベッドで寝たまま動けなくなり。呼吸も苦しそうになって、どんどん衰弱していくんです」


「ほう。それは大変だな……」


 僕は、エールに口をつけながらジムの話を聞いていた。


「ただ、その病気で一番おかしいのは…… 病気になった少女たちの左腕に、変な文字のようなものが浮き上がっているんです。まるで、タトゥーでも入れたかのように…… 呪文のような文字が刻まれているんです」


「左腕に…… 文字だって!?」


 それを聞いてライカが、過敏に反応した。彼女の左腕にも文字が刻まれている。他人事とは思えなかったのだろう。


「なるほど…… それで、僕たちを訪ねて来た訳か」


「ええ。この街には、呪いにかかった女戦士がいると。その人も左腕に文字が刻まれていると聞いたので…… 今回の件と何か関係があるんじゃないかって」


 僕は、ライカに目で合図をした。


「ライカ。左腕をジムに見せてやってくれ」


 ライカは、黙って頷く。そして、左腕に巻いた包帯をほどくと刻まれた文字をジムに見せた。


「病気になった少女の左腕に刻まれた文字っていうのは、これと同じものか?」


 ジムは、首を横に振る。


「文字の内容は、僕には分かりません。ただ、すごく似ていると思います……」


 僕は、少し考え込む。そして、チラリとライカの方を見た。


「どうする? ライカ。お前の呪いと何か関係はあるかもしれないが……?」


「そうだね。すごく気になる話だ。それに、リィドの能力なら私の呪いみたいに書き換えることで、病気になった少女たちを救えるかもしれないね」


 そのやり取りを聞いていたジムが、僕たちに向かって頭を下げる。


「お願いします! 僕の村を助けてください! 僕の妹も病気になっているんです! お願いです! 大したお礼はできませんが……」


 ジムの着ている衣服から見ても、あまり裕福な暮らしをしているとは思えない。謝礼はたしかに期待できないだろう。しかし。


「いや、礼はいらないよ。ジム。助けられるかどうかは、まだ分からない。だが、明日にでもさっそく君の村に行こう。とりあえず、どんな病気なのか見せてくれ」


「ありがとうございますッ! え、えーと……」


「ああ。僕の名前は、リィドだ。リィド・ライベール。旅の小説家さ。こっちは、女戦士のライカ。よろしくな! ジム」


「リィドさん! ライカさん! よろしくお願いします!」


 僕たちは、明日の朝またジムと会う約束をして別れた。そして、今晩は街の宿屋に泊まることにした。



 そして、次の日の朝……


 宿の1階でライカと待ち合わせる。眠そうな目をしたライカがやってきた。僕は、挨拶をする。


「おはよう。ライカ。よく眠れたかい?」


「いや、ベッドで寝るのは久しぶりでね。逆に眠れなかったよ…… 緊張して」


「ははは。すぐに馴れるさ」


 彼女は、今までずっと街の外で野営をして過ごしてきたのだ。宿に泊まるのも生まれて初めてらしい。緊張するのも無理はないだろう。


「おはようございます! リィドさん。ライカさん」


 そうこうしているうちに、僕たちの元にジムがやって来た。彼は、昨晩は知り合いの家に泊めてもらったらしい。


「よし! じゃあ、さっそくジムの村に行くとしよう。出発だ!」


 こうして、僕たちはジムの住んでいる村を目指して出発した。この街のすぐ隣の村らしいが。隣と言っても、けっこうな距離がある。歩いて1日半以上はかかる旅となった。


 途中で、野営をして夜を過ごす。野営に馴れたライカは、この時の方が生き生きとしていた。代わりに今度は、僕が若干の寝不足になる。


 インドア系の小説家の僕にとっては、地面で寝るのはあまり向いていないのだ。やはり、ふかふかのベッドで寝るに限る。



 そして、次の日のお昼ごろには村に到着した。


 家が50軒ほどの、のどかな農村といった感じだ。村の周りは、小麦畑で覆われている。牛や馬なども飼っている。よくある農村の風景だった。


「リィドさん。ライカさん。こっちが、僕の家です!」


 ジムに連れられて村の中を進んでいく。村の人たちは、僕たちをあまり歓迎している雰囲気ではない。よそよそしい目で見られている。まあ、閉鎖的な農村ではよくあることだ。気にせずに進んだ。


 そして、ジムの家に着く。ジムの父親と母親にも挨拶をした。そして、さっそく病気にかかっている妹の様子を見せてもらうことにした。


「妹のエマです。エマ! お兄ちゃん帰って来たぞ」


 ベッドには、10代の少女が苦しそうに寝ていた。息をハァハァと切らし、額に汗を浮かべている。


 僕は、少女の左腕を見た。まるで、タトゥーでも入れたかのようにびっしりと文字が刻まれている。


「これは…… 古代ベラリス文字だな……」


 ひと目見て文字の種類は分かった。それは、ライカの左腕に刻まれた文字と同じ種類だったからだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ