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第7話 祝杯

「本当に大丈夫なのか? リィド。何ともないのか?」


 ライカは、そわそわしながら僕に尋ねる。僕は、両手を広げて答えた。


「ああ。何ともないよ。このとおりさ! ピンピンしてる」


 時刻は、ちょうど日没した頃。昨日、僕とライカが出会ってちょうど丸1日が経過するころである。


 ライカの左腕には、古代ベラリス文字で呪いの呪文がタトゥーのように刻まれていた。その内容は『1日以上、側にいた者を死に至らしめる』というものだ。


 つまり、ライカと24時間以上ともに行動した人間は死んでしまうのだ。彼女は、この呪いのせいでずっと孤独に暮らしてきたのだ。


「本当に…… 本当なんだね……? リィド。あんたが、呪いの内容を書き換えたっていうのは」


「ああ。ライカ。本当さ! 『1日以上』の部分を『100日以上』に書き換えてある。呪いそのものは消えたわけじゃないが、100日間は一緒にいても平気だ」


「そうかい……」


 ライカは、いつの間にか目から涙を流していた。悲しんでる訳では無さそうだが。


「どうした? ライカ。何で泣いてるんだ?」


 俺が尋ねると、ライカは恥ずかしそうに両目をゴシゴシと腕で拭う。


「べ、別に! ただ…… 初めてなんだよ。こんなに誰かと一緒にいたのは…… ずっと1人だったからさ」


「もう1人じゃなくでも大丈夫だ。僕の仲間になってくれるよね? ライカ」


 僕は、ライカに向けて手を差し出した。握手を求める。しかし、ライカはそっぽを向いて答えた。


「それはどうかしら? そんな約束をした覚えはないよ!」


「えッ!? そんなー!」


 その言葉に目を丸くする僕。しかし、ライカは僕の顔を見て笑った。


「うふふッ! でも、あんたのことは少し気に入ったよ! リィド。変わったやつだ…… 仕方ないから、しばらく一緒にいてやるよ」


「そうこなくっちゃ!」


 こうして、僕とライカは行動を共にすることになった。勇者パーティーを追放された僕が、自分で作った僕のパーティーだ。メンバーは、まだ2人だけだけど。



「どこに向かってるんだい? リィド。この先には街があるけど……」


 不安そうな顔で尋ねてくるライカ。僕は、自信あり気に答える。


「もちろん街に向かってるのさ。決まってるだろう? せっかく仲間になったんだ。街の酒場で祝杯を挙げよう。君と僕が出会った、あの酒場でね」


「で、でも…… 街のみんなは、私のこと……」


 ライカは、寂しそうにうつむいた。彼女は、呪いのせいで街の住人達から忌み嫌われていた。そのため、街に行くことはほとんど無かったそうだ。たまに必要な食料や日用品を買いに訪れる程度だ。


 僕は、自信たっぷりに答える。


「心配ないよ! ライカ! 君の呪いは、もう書き換えられた。その証拠に、この僕がこうして生きてるんだ。街の連中にも話せば分かってもらえる。君が遠慮する必要は何も無い!」


「そうかい。でも……」


 ライカは、まだ浮かない顔をしている。しかし、僕は彼女を連れて街に向かった。


 そして、夜も更けた頃。酒場に到着する。入り口のドアを開けると、客たちの視線はライカに向けられた。その視線は冷たいものだった。


「また来たのか…… あの女」


「呪われた死神め……」


 ライカを見て、客たちは侮蔑の言葉を口にする。だが、僕は酒場の中央まで進んだ。そして、声を張り上げて言った。


「僕の仲間を『死神』と呼ぶのはやめてもらおうッ! 僕の名は、リィド・ライベール! 昨日、彼女とここで会って、そして1日以上一緒に行動している! 僕は、このとおり生きている! ピンピンしている! もう一度言うぜッ! 僕の仲間を『死神』呼ばわりするんじゃないッ! いいか? 二度とだ!」


 酒場の客たちに向けて啖呵を切った。ライカは「リィド……」と少し泣きそうな顔で言った。


「よし。ライカ! ここに座ろう。エールを2つ頼む!」


 僕は空いてるテーブル席に腰をかけると、ライカにも座るよう促した。酒場の客たちは静まり返っている。時々、僕とライカを見てこそこそと話しているようだが。


「まあ、昨日の今日だ。いきなり信じろというのも無理はあるか…… でも、大丈夫さ。ライカ。僕がついてる」


 あまり居心地が良いとは言えないが。誰も僕たちを追い出そうとする者はいなかった。昨日もいた何人かの客が、僕がライカに話しかけていたのを覚えていたようだ。その僕が生きているのだ。何よりの証人である。


 僕とライカは、エールで祝杯を挙げた。木製のジョッキで乾杯する。


「酒場で飲むなんて生まれて初めてだよ…… ここには、たまに食料を買い来てたけどね」


 ライカは少し嬉しそうな顔をしている。僕は笑って言った。


「これから好きなだけ飲めるさ……」


 料理をつまみながら酒を2人で飲む。そんな時だった。1人の若い男がライカの元に近寄って来た。まだ成人はしてなさそうな10代の若い青年だ。


「あ、あの…… あなたが、呪いにかかっているっていう女戦士の方ですか?」


 青年は、ライカにぶしつけに尋ねてくる。僕はライカに代わって、立ち上がって答えた。


「それが何か? 悪いけど。僕の連れに気安く話しかけないでもらおうか?」


「あッ…… す、すみません! ど、どうしてもお聞きしたいことがあるんです! お願いします!」


 青年は、僕たちにペコペコと頭を下げる。どうやら事情があるようだ。



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