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第6話 勇者ホランドの憂鬱

今回のエピソードは、主人公とは別人の視点。

勇者ホランドの視点のエピソードとなります。

ご注意ください。

 俺の名は、ホランド。


 勇者に選ばれて以来、魔王を倒すために仲間と旅をしている。


 今日もSランクのモンスターたちと戦っているのだが、今日はなぜか苦戦する。パーティーのメンバーは、いつもと変わらないし、戦っているモンスターもいつもと同じだ。


 それなのに、いつもと違ってモンスターがなかなか倒せない。いつもより強く感じる。なぜだろう?


 何度か戦う内に、ようやく違和感の正体に気づいた。


「いつもより後方支援の魔法攻撃の威力が落ちていないか?」


 俺たちのパーティーは、前衛に勇者である俺と戦士と格闘家の3人。後衛に、魔術師が2人と僧侶が1人の計6人編成のパーティーだ。


 前衛の戦士と格闘家には、変調は見られなかった。いつもどおり戦っている。おかしいのは、後衛の魔術師たちだ。魔法による攻撃の威力がいつもより低いのだ。


 それが原因でモンスターに苦戦しているのだと気づいた。


 俺は、仲間の魔術師の1人。高齢の男魔術師の方に尋ねた。


「どうして、魔法の攻撃力が落ちているんだ? 調子でも悪いのか?」


 高齢の男魔術師は、首をひねって答える。


「いや、使っている魔法はいつもと変わらない。なんで威力が落ちているのか理由が分からない」


 魔法攻撃の威力が落ちているのは間違いなさそうだが。その原因までは解明できなかった。その時だった。


 パーティーにいるもう1人の魔術師。若い女の魔術師の方が、何かに気づいたかのように手をポンと叩いた。


「ひょっとしたら…… あいつのせいかも……」


「何だ? あいつのせいって。何か心当たりがあるのか?」


 俺は、若い女の魔術師に詰め寄った。女魔術師は、俺に説明する。


「私たちが使う魔法は、『魔導書』っていうアイテムが発動体になっているの。この魔導書は、街の魔法屋とかで購入するんだけどね……」


 それくらいは、俺も知っている。魔術師は『魔導書』などの魔術の発動体に、自らの体内に宿した魔力を消耗させて初めて魔術を使うことができるのだ。


 若い女の魔術師は、俺に説明を続けた。


「このパーティーの『魔導書』を昨日まで管理していたのは、小説家のリィドだったのよ」


「なんだって!? あのリィドか!?」


 俺は、驚いて声を上げた。小説家のリィド。リィド・ライベール。それは、俺が昨日クビにしてパーティーから追放した人間だった。モンスターと戦うこともできない役立たずの小説家だ。


 女魔術師は、話を続ける。


「リィドは時々、魔導書に何か細工をしていたわ。何をしているのか尋ねたら、魔法の威力が上がるように『編集』しているんだって言ってたわ。私は、そんなの嘘だと思って信じてかったけど……」


 俺は、唖然とする。


「あいつが…… あのリィドが、魔法攻撃の威力を上げていただと……」


 もう1人の魔術師、高齢の男魔術師の方も納得したように声を上げた。


「そういえば、リィドのやつ。やけに魔術にくわしかったな…… 確か、やつの実家。ライベール家は、魔術師の家系だと言っていた。ただ、やつ自身は生まれつき魔力が無くて、魔術師にはなれなかったとか。そんなことを話していたことがあったな……」


 それを聞いて、俺はわなわなと体を震わせる。


 そんなバカな…… ただの役立たずだと思っていたのに。それどころか、俺が主人公のエロ小説を書いて街で売りさばこうとした…… あのリィドが! あのクソ野郎がッ!?


 パーティーの魔導書に細工をして、魔法攻撃の威力を上げていただと!?


 それじゃあ、今日モンスターに苦戦しているのは、あいつをクビにしたから。あいつをパーティーから追放したからだって言うのか!?


 俺が、あいつをパーティーから追放したせいでモンスターとの戦いに苦戦しているっていうのか!?


「ねえ、ホランド。何で、リィドをクビにしたんだい? あいつは、確かにモンスターと戦うなんてできなかったけど。雑用とか、けっこう熱心にやってたよ。掃除に洗濯、あと料理もけっこう上手かったしさ……」


「そうじゃなあ。もし、あいつが魔導書に何か細工をして、魔法攻撃の威力を上げていたなら。間接的には、戦闘の役にも立っていたことになるし。追放することは、なかったんじゃないか……?」


 若い女魔術師と年老いた男魔術師は、そう言いながらチラリと俺の顔を覗き込んで来る。だが、俺は2人の魔術師に言い放った。


「いや、あいつは…… リィド・ライベールは、役立たずの小説家だ! 俺たちのパーティーには必要ない! あいつのことは忘れろ。二度と口にするな!」


 そして、俺は2人の魔術師に背を向けて言った。


「いったん、街に引き返すぞ! 魔法攻撃の威力が落ちているなら、威力の高い魔導書を買い直せばいい。そして、体勢を立て直す」


 くそッ! 忌々しい!


 あいつのせいで出直すことになるのは、内心ものすごく腹立たしい。


 前衛の戦闘力が頭打ちになっている今、魔法による支援攻撃はかなり重要だ。今後の戦闘のかなめとも言える部分だ。


 そこに、まさかあいつが…… あの役立たずの小説家。リィド・ライベールが関わっていたなんて。思いもよらなかった。



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