表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

第5話 翌日の朝

 剣を持ったゴブリンたちが、じりじりと距離を詰めてくる。僕は、もう武器も持っていないし、魔導書もさっき使って無くなった。


「く、来るなッ! 来るなッ! 来るなぁーッ!」


 そう叫びながら後ずさる。今、襲われたら一巻の終わりだ。絶体絶命のピンチである。その時だった……


「うおりゃああああーッ!」


 大きな叫び声と共に、目の前のゴブリンが吹っ飛んだ。そして、剣をかまえたライカの姿が見える。どうやら助けに来てくれたようだ。


「大丈夫か? リィド! 生きているか?」


「あ、ああ。おかげさまでね…… 何とか生きてるよ」


 ライカの問いかけにホッと安堵して答える。助かった。戻って来たライカは、周りにいるゴブリンを次々と剣で斬り倒していく。


 そして、1人で10匹以上のゴブリンを斬り殺したのだった。残りのゴブリンたちは、散り散りになって逃げていった。


「大したもんだ…… 1人でゴブリンの群れを撃退するとはな」


 僕は、感嘆の声を漏らす。周囲にはライカが倒したゴブリンの死体が、あちこちに散らばっていた。


「あんたも1匹倒しているじゃないか。リィド。お前さん魔法が使えたのかい?」


 1匹だけ焼き焦げたゴブリンの死体がある。僕が、ファイアーボールの魔法で倒したやつだ。その焼死体を不思議そうにライカは覗き込んでいた。


「魔法が使えるといっても1回だけだよ。その1回でもう魔力切れだ……」


 魔術を使うためには、知識と技術、それから魔導書などの術式が書かれた発動体。そして、体内の魔力を消費して初めて魔術を発動できる。


 僕は、魔術の知識と技術は持っているが、魔力は生まれつき少ない体質なのだ。だから、せいぜい簡単な魔法を1回使える程度だ。魔力の回復には、約1日かかる。


「まあ、私から見れば1回だけでも魔術を使えるなら大したもんだけどね。おかげで無事に生き残れたようだし……」


 ライカは、逆に感心したような目で僕を見る。僕は、ライカに尋ねた。


「それより、これからどうする? またゴブリンに襲われたんじゃあ、おちおち寝てもいられないぜ?」


「そうだな…… 面倒だが場所を移動しよう」


「安全面を考慮して、街に戻って宿に泊まるっていうのはどうだい?」


 その言葉には、ライカは首を振って答えた。


「それは却下だ。街の人間に迷惑をかける訳にはいかないさ。よし! 行くぞ!」


 僕とライカは、荷物を持つと別の場所に移動した。そして、再び野営の準備をする。


 またゴブリンの群れに襲われるのではないかという不安と、久しぶりの野宿で、その日はあまり眠れなかった。



 結局、その後は何事もなく朝になる。朝日が差し込んで周囲は明るくなった。


「ふぁあああ! おはよう。リィド。よく寝れたかい?」


 大きく伸びをしながら、ライカが上半身を起こした。彼女は昨晩、ぐっすりと眠っていた。大したメンタルの持ち主だ。


「いや…… あいにく僕は、誰かさんと違って繊細なハートの持ち主でね。とてもじゃないが、こんな素敵なベッドでは眠れないよ」


 僕は、嫌味を込めて返事をする。だが、ライカはそれを気にとめる様子もない。


「すぐに朝飯にするから、ちょっと待ってな」


 ライカは、朝食の準備にとりかかる。昨日の晩飯と同じような肉と野菜を煮込んだスープを作り出した。


 そして、2人で朝食を食べる。


「どうだい? 味の方は?」


「ああ。美味いよ…… でも、昨日の夜も同じものを食べたからね。できれば、別のメニューがよかったな。ハムエッグとかさ」


「贅沢言うんじゃないよ! これが一番、栄養が取れるのさ。あと、作るのも簡単だしな!」


 肉と野菜を鍋で煮込み、塩で味付けしただけの豪快な料理だ。そりゃあ、簡単だわな。


 朝食を終えた後、僕はライカに尋ねた。


「これから、どうするんだ? ていうか、いつもは何をして暮らしているんだ?」


「うん? ああ。まあ、その日暮しだな。金が必要になったら、街へ行って冒険者ギルドから仕事をもらうさ。ゴブリン退治とかがほとんだ。それ以外は、特にすることもないし。のんびり過ごしているよ」


「ほう……」


 思ったより寂しい生活だ。無理もない。彼女は呪いのせいで他人と一緒に生活はできない。しかし、もうその孤独に馴れきってしまっているのだろう。感覚が麻痺しているのだ。


 ライカは、不意に僕の顔を見た。


「それより、リィド。あんた。本当に、このまま私と一緒にいる気かい? このままだと今夜あたり、あんたは呪いのせいで死ぬよ。私と1日以上、一緒にいて生きてた人間はいないんだ」


「その呪いなら、書き換えたから大丈夫だって言ったろう。それを証明するためにも一緒にいるさ。僕なら大丈夫だよ」


 不安そうな顔をするライカに、僕は笑って答えて見せた。だが、ライカの顔色は変わらない。


「さすがに呪いのせいとはいえ、目の前で人が死ぬのはいい気分じゃない……」


「心配するなって。僕は、魔術だって使って見せたろ? 君の左腕の呪文は書き換えてある。1日一緒にいても僕が死ぬことはない。何度だって言ってやるさ」


「そうか……」


 まあ、彼女にとっては初めての経験だ。信じ難いのも無理はない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ