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第3話 呪われた女戦士(後編)

 女戦士の左腕。褐色の肌には、文字のような刺青いれずみがびっしりと刻まれている。うーむ。


「ああー。若気の至りでタトゥー入れるのはいいけど。そういうのって、年取った時に後悔するよ?」


「ファッション感覚で入れてるタトゥーじゃあねえよッ! 呪いだ! 呪い! この左腕に刻まれてるのは呪いの呪文なんだよ!」


 怒声を発する女戦士。そう言われて、僕は刻まれている文字をまじまじと見た。


「おや? 本当だ…… これは、古代ベラリス文字だな。ちょっと失礼! 読解リーディング!」


 僕は、そう唱えながら女戦士の左腕に手をかざした。すると左腕に刻まれた文字が赤く光る。そして、空中に赤く光る文字が浮かんで羅列した。


「な、何だ!? お前! いったい何をした?」


 突然、空中に浮かんだ文字を見て女戦士は驚いた声を出す。僕は、空中に並んだ文字を見ながら平然と言った。


「ああ。落ち着いて…… 僕の職業は『小説家』なんだ。これは、読解リーディングっていうスキルさ。魔術などの演算式を読むことができるんだ」


 そう説明しながらも、目で文章を追った。古代ベラリス文字を使用した高度な呪術だ。


「なるほど…… 呪いの内容は、1日以上近くにいた者を死に至らしめる…… か。趣味の悪い呪いだな」


「そうだよ。この呪いのせいで、私はずっと1人だ。誰も側に寄り付きゃしない。分かったら、あんたもさっさとどっかへ行きな! 私に近寄るんじゃあないよ」


 女戦士は、手のひらをヒラヒラと動かして僕を追い払おうとする。しかし、僕はその場を動かなかった。


「なーに。こんな呪い、僕にはどうってことないさ!」


 そう言いながら、僕は空中に浮かんだ文字を指でなぞる。文字は赤く輝いた。女戦士は、驚いた顔で僕を見た。


「ま、まさか…… あんた。呪いを消せるのかい?」


「いや、それはまさかだな。こんな高度な呪術を消すなんて僕には無理だ。いや、相当高レベルな聖職者じゃないととても解呪は無理だろうな」


「そうだよな……」


 一瞬、期待したのか。女戦士は、すぐにシュンとした顔をする。だが、僕は言った。


「でも、僕の職業は『小説家』だ! 呪いを解除はできないが。書き換える(・・・・・)ことならできるさ!」


 そして、指先に力を込める。空中に浮かんだ文字の羅列に、新しい文字を書き加えていった。


「な、何!? 何をしているの?」


「呪いの内容を書き換えた。『1日以上近くにいた者を死に至らしめる』その『1日以上』の部分を『100日以上』にね。これで、100日間は君の側にいても平気さ」


 そう、これは小説家の特殊スキル『読解』に続いて『編集』と呼ばれるものだ。魔術や呪術の術式をある程度なら改ざんすることができるのだ。効果を完全に消したりするのは不可能だが。


「さて、君の名前をまだ聞いてなかったね。僕の名前は、リィド。小説家のリィド・ライベール。君の名前は?」


 僕がそう聞くと、女戦士は初めて「ふっ」と笑った。そして、答える。


「私の名前は、ライカ。ただの戦士。ライカだよ」


「よろしく。ライカ」


 さっそく握手をしようと手を伸ばすが、ライカはそれを拒否した。


「悪いけど、あんたのことを信じた訳じゃあないよ。ちょっと変わったやつだなって思っただけさ。本当に呪いの内容が書き換えられたのかもまだ信じられないしね」


「じゃあ、それを証明してやるさ。これから1日以上、君と行動を共にして見せる。それなら信じられるだろう?」


「ふん。勝手にしな! 言っとくけど、あんたが死んでも私は責任取らないよ!」


 女戦士ライカは、街の外へ向かって歩き出す。僕もその後を追った。



 周囲は、既に薄暗くなっていた。


「おい、ライカ! これから夜になるのに、何で街の外に行くんだ?」


 ライカは振り返らずに歩きながら答える。


「ここには食料を買いに来ただけだ。あいにく私は呪われた身だからね。街の住民の迷惑にならないように、普段は街の外で暮らしている」


「呪いの内容なら僕が書き換えたから、街の中にいても大丈夫だが……」


「そんなことは私も信じてないし、街の人間だって信じちゃくれないさ」


 さっき、ライカの左腕に刻まれた呪文を書き換えて見せたのだが、信用してくれていないようだ。証明するには、彼女と1日以上過ごして無事な姿を見せるしかあるまい。


 結局、街の外に出て1時間ほど歩く。そして、小高い丘の上にたどり着いた。


「さて、今夜はここで野営するとするか……」


 ライカは、馴れた様子で野営の準備をする。火を起こして焚き火を始める。そして、さっき酒場で購入したと思われる食材などを料理した。


「ほら。あんたも食べるかい? えーと、リドとか言ったっけ?」


「リィドだ。ああ、いただくよ」


 肉と野菜を煮込んだスープだ。ライカから木製の皿を受け取る。そして、ひと口食べてみた。


「うん。美味いね…… たまには外で食事するのも悪くない」


 ちょっとしたキャンプの気分だ。まあ、勇者パーティーにいたので野営はめずらしいことではない。森やダンジョンの中でよく野宿したものだ。


 焚き火を囲んで料理を食べる僕たち。しかし、ライカの口数は少ない。機嫌が悪いっていう訳でも無さそうだが。



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