運命の白馬の王子様、現る!
ノリで書きました。
エセ関西弁が登場します。作者は東日本在住です。関西の方には、是非とも温かい目でスルーしていただけると幸いです。
ご都合主義満載です。気になることがあっても、スルーしていただけると大変ありがたいです。
作者のメンタルはティッシュペーパー並なので、お手柔らかにお願いいたします。
期間限定で感想を受け付けておりますが、事前告知なく閉じてしまうこともございます。病気療養中のため、ご理解とご了承をお願い申し上げます。
侯爵令嬢ユーフィミア・エリザベス・オブライエンは、彼を一目見た瞬間、恋に落ちた。
彼は美しかった。
白磁のように白い肌、睫毛の長いくっきりとした大きな目、鼻筋の通った秀麗な面差し、無駄のないしなやかな筋肉がついた見事な体躯、そして長く優美な手足。
女性にしては長身で、ハイヒールを履くと大抵の男性よりも背が高くなってしまう彼女よりも、頭一つ以上高い身長。
何もかもが彼女の理想通りの王子様が、目の前に立っていた。
「お怪我はございませんか、レディ?」
綺羅綺羅しい尊顔を柔らかく和ませ、彼は乗っていた馬から降りて、地面に座り込んだままのユーフィミアに手を差し伸べてきた。
「はいぃぃぃっ♡
あああ、危ない所を、た、助けていただき、あり、ありが…とうございますっ」
差し伸べられた手を握り返しながら、ときめきで激しく動悸する胸を押さえ、思いっきり噛みながらも何とか謝礼を述べた。そんなユーフィミアの様子に彼は優しく微笑みながら、温かく大きな手で助け起こしてくれた。
「危ない所でしたね。ご無事で何よりです。もしよろしければ、お名前をお聞かせいただいても?」
「あ、はい!
この度は危ない所を助けていただきまして、誠にありがとうございます。わたくしはオブライエン侯爵の長女、ユーフィミア・エリザベス・オブライエンと申します」
「そうでしたか。貴女様がオブライエン卿のご息女であらせられましたか。お噂はかねがねお聞きしております。申し遅れました。私はアルミレオ・ハーネスト・ロイド・ハクセンと申します」
彼の名を聞いて、ユーフィミアはヒュッと息を飲んだ。その名前には心当たりがありすぎたからだ。このハクセン王国で知らない人などいない、美貌の第三王子の名がまさにそれだった。
ユーフィミアはあわてて手を引き抜くと、その場でカーテシーをした。
浮かれていた気持ちもスゥッと冷める。
「第三王子殿下。お初にお目にかかりまして、恐悦至極にございます。この度は危ない所を助けていただきまして、誠にありがとうございました」
「ああ、そんなに畏まらなくてもいいですよ。たまたま通りかかっただけですから。それにしても、こういう事はよくあるのですか?」
アルミレオ王子は美しい顔をしかめながら、騎士たちによって捕縛された盗賊共にチラリと視線を向けた。ユーフィミアもそちらを見やり、ハの字に眉を下げた。
「…時々ございます。この森を抜けた先は我が家の領地なのですが、ここを根城にする盗賊たちが後を絶ちません。我が家も討伐隊を派遣しているのですが、捕まえてもすぐに新たな盗賊たちが住み着いてしまうのです。この道は王都へ通じる重要な街道ですから警備も堅固にしているのですが、イタチごっこで困っております」
「そうか…。狙いは、オブライエンの苺かな?」
「そのようでございます。何度も苺の取引商人が襲われておりますので、間違いないと思います」
「なるほど……」
アルミレオ王子は形のよい顎に整った形の拳を当てて、考え込んだ。
美貌の第三王子は仕草の一つ取っても優雅で気品にあふれている。ここは木の枝に遮られて日差しが薄い森の中の街道の真ん中だというのに、背景に薔薇と百合を背負って、キラキラのエフェクトがかかっているように見えるのは気のせいではないだろう。顔が変形するまでボコボコにされた盗賊たちもフレームアウトしている。
ユーフィミアの生家であるオブライエン家は、領地で特産品の苺を栽培している。その苺は「紅い宝石」と呼ばれ、瑞々しい甘さの中にほのかな酸味が感じられる逸品である。国内はもちろん、近隣の国々からも絶大な人気を誇っており、交易品としても高値で取引されている。王家に献上されるような最上級品になると、一粒で金貨一枚もする。
なお金貨一枚で平民の四人家族が一月はちょっと豪華に暮らせる。
それらを狙う盗賊団の存在はオブライエン家としても頭の痛い問題となっていた。
ユーフィミアは王都から領地に帰る途中で襲撃に遭い、そこを演習帰りにたまたま通りかかった第三王子率いる騎士団一行に助けられたのだった。彼女が乗っていた馬車は襲撃の際に車軸が折れてしまい、横倒しになっている。
襲撃と同時に伝令を出したためもうすぐ応援が来るだろうが、このまま盗賊団をのさばらせておくわけにもいかない。そろそろ領兵や駐屯する騎士団だけでは手に負えなくなってきている。オブライエン家に長年仕え、領地経営も補佐してくれている老執事のロウネルと共に「何とかしなくては」と馬車内で話している最中に襲われた。
人の噂をしていたら、本人が来ちゃったよパターンである。お呼びでないが。
ユーフィミア自身は、馬車が倒れる寸前にロウネルによって開いた扉から茂みに突き飛ばされたため、ドレスが少し破れた程度で済んだが、車内に取り残された彼は腰を打ってしまったようだ。先日、ようやくギックリ腰が治ったというのに、とんだ災難である。
だが、この災難をユーフィミアは心の中で喜んでしまっていた。ロウネルには悪いが、おかげで理想の彼と運命の出会いを果たすことができたのだ。
しばし考え込んでいたアルミレオ王子は、金髪碧眼の秀麗な面持ちをユーフィミアに向けた。
「オブライエン嬢。突然ですまないが、我々を領地にしばし滞在させてもらえないだろうか?盗賊団の問題はもはや国難といっても差し支えないほどだ。色々と調べさせてもらって、国王陛下に報告させていただく。
オブライエンの苺は、我が国の特産品でもある。このままにしておくわけにはいくまい。かまわないだろうか?」
「はいっ。それはもちろんでございます。是非ともよろしくお願いいたします!」
「急な事で申し訳ない。よろしく頼む」
アルミレオ王子のキラキライケメンスマイルに、ユーフィミアは胸が高まった。
王子は騎士団に、倒れてしまった馬車とギックリ腰の再発で動けなくなってしまったロウネルを任せ、ユーフィミアを連れて数人の護衛騎士とともにオブライエンの領地へと向かった。
ユーフィミアは王城に勤める父に代わって領地経営の一切を任されている。
オブライエン家にはユーフィミアと妹のアレキサンドラしか子供はいない。体の弱かった母は、ユーフィミアが五歳の時、妹を産んだと同時に息を引き取ってしまった。母を深く愛していた父は後妻を迎えなかったため、ユーフィミアが跡継ぎとなり、十四歳の頃から父に代わって領地を治めてきた。忙しい毎日を送っており、特産品である苺の品種改良や販路拡大、さらには加工品の開発にと、領民たちとともに奔走していた。
そんな彼女が王都を訪れていたのは、王都のタウンハウスに住んでいる父に呼び出されたからだった。何事かと行ってみれば、自分の婚約者と妹がイチャイチャラブラブなピンク色の空気を振りまいており、そしてものの見事にフラれた。というか、婚約破棄された。
これで三人目である。もう慣れっこになっていたユーフィミアは「アー、イイデスヨー」と棒読みで答えた。
そんなユーフィミアは婚礼適齢期を過ぎた二十一歳になってしまっていた。今もお一人様ライフを楽しんでいる――はずがないだろ!ふざけんなよ!!!
原因は妹のアレキサンドラだった。
この妹は、ほとほと困った人物だった。アレキサンドラは生まれたと同時に母を亡くしているため、一度も母親に抱かれたことがない。それを不憫に思った父親が甘やかして育てたため、とんでもないわがまま娘になってしまったのだ。
その一番の被害者がユーフィミアだった。
アレキサンドラは姉の持っている物を何でも欲しがった。ドレスやアクセサリー、愛用していた日用品は当然のことながら、母がユーフィミアに贈ってくれた特別なテディベアまで奪われてしまったのだ。そのテディベアは、ユーフィミアの髪と同じミルクティー色の毛と、同じ菫色の宝石を目に嵌めこんだ特注品だった。欲しがったアレキサンドラが大泣きしながら床に寝転がって手足をバタつかせても、絶対に手放さなかった宝物だ。しかし亡くなった母に生き写しの妹に、父は甘すぎた。
「アレキサンドラはお母様に抱かれたこともない、可哀想な子なのだぞ!お前は姉なのに、なぜ妹に優しくできないのだ!!」
父はユーフィミアを怒鳴り、頬を叩いてテディベアを取り上げてしまった。念願のテディベアを手に入れてご満悦のアレキサンドラを、父は優しい笑顔で見守っていた。二人の後ろで、侍女のスカートに顔を埋めて泣いているユーフィミアには目もくれなかった。
それ以来、アレキサンドラはユーフィミアの物をなんでも奪うようになったのだ。ドレスや宝飾品、日用品は当たり前のこと、化粧品、眉唾な露天商から買った謎の仮面、部屋に置いてある家具やカーテン、残飯整理に可愛がっていた豚、年頃になってからは姉の婚約者…………等々。
そしてテディベアと同じく、すぐに飽きて「いらないわ」と言って捨てるのだった。―—仮面は捨ててもらってありがたかった。捨てたら何やら呪われそうな感じで怖かったからだ。
ユーフィミアは領地での仕事が忙しく、離れることができない。婚約者たちと頻繁に手紙のやり取りはしていたが、会うことは難しかった。
特に社交シーズンが本格化する春は忙しい。
シーズンは四月に王家が主催する王城パーティーを皮切りに始まる。パーティーでは贅をつくした料理やスイーツが作られるのだが、それに使う苺の大量注文が入るのだ。王城だけではない。あちこちの有力貴族家からも注文が入り、ユーフィミアは毎年その対応に追われていた。折しも注文が入る時期は、苺の収穫が最盛期を迎える時期と重なる。それはもう、目の回る忙しさだ。侯爵令嬢であっても領民と一緒になって収穫から出荷準備に奔走する。
そしてロウネルは毎年ギックリ腰になるのだ。
―――このクソ忙しい時に!!
と、心の中で悪態をつくユーフィミアだが、執事のロウネルは父親よりも年上なのだ。はっきり言ってしまえば、棺桶に片足を突っ込んでいるお年頃のオジイチャンなのだ。そりゃ、ギックリ腰にもなる。むしろギックリ腰だけですんでいる化物じみた老人を褒めてやってほしい。
ロウネルの補佐兼跡継ぎの執事見習いのイグニスがいてくれるが、彼はまだ半人前である。ロウネルには到底及ばない。
ユーフィミアの忙しさは、苺が売れるほどに比例して増していった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿予定は明日の正午になります。続きが気になる!という心優しいユーザ様は、ブクマと☆ポチをしつつで構いませんので、是非ともお越しくださいませ。
作者は五体投地でお待ち申し上げております。
なお、捨てられちゃったテディベアはきちんと回収済みです。
クリーニングもファブ〇ーズも、滅菌消毒も完璧です。オブライエン家の使用人に抜かりはありません。(※ユーフィミア限定で)