第5話 魔導具と初戦闘
手紙を受け取り、樹木の精霊であるサクラさんに案内されてログハウス内を移動した。
多分だが、サクラさんは、ラノベ定番の〈万能AI〉になるのだろう。
指定された扉を開けた。窓のない部屋……。真っ暗である。
だが、次の瞬間にランプが灯った。
「……すごい」
ゲームに出て来る様な武器が所狭しと並んでいた。いや、武器だけではない。金銀宝石を用いた装飾品も数多く並べられている。
お面や仮面、帽子なんかも壁に大量に並べられていた。
『装飾品を一つでも持ち帰れば、数千万円で取引されるでしょう。
でも、伝手がないのであれば、足元を見られかねないので止めた方が良いですけどね』
多分、嘘は言っていない。僕に鑑定のような審美眼はないが、それでも本物であることは分かる。
『それでは、まず防具を選びましょうか。飾られている物から好きな物を選んでください』
防具? 篭手とか鎧かな? だが、そんな物を身に着けても動けなくなるだけである。
少しウロウロして服を一着選んだ。着物に近い和風の服……。いや、どちらかと言うと中華風の服を着てみる。
帯を締めて準備完了だ。
『それは八卦衣ですね。刀剣や軽い攻撃から身を守る服です。盾とかもありますが、不要ですか?』
「なんとなく感じます。あまり装備し過ぎない方が良いと……」
『そうですか……。それでは次に武器を選びましょう。どんな物がお好みですか?」
そう言われてもな……。普通なら剣を選ぶのだろうか? それと壁には、槍が掲げられている。あれは目立つ。
でも、僕は格闘技のセンスなどない。選べと言われても選べなかった。
少し考える。
「中長距離の武器はありますか? 近接用の武器は向かないと思います」
『それでは、左手前の〈弓と矢〉などいかがでしょうか? 優莉さんなら扱えます』
大きな弓と矢だ。言われるがまま手に取ってみる。
思ったほど重くはなかった。
『〈乾坤弓〉と〈震天箭〉という魔導具です。優未さんが作成しました。
神話の物とは、少し異なるかもしれませんが、強いですよ』
聞いたことがあるな。西遊記とか封神演義の哪吒の武器だったはずだ。いや、本来は李靖だったか?
まあ良い。とりあえず、これで行こう。
『それでは、外に出てみましょうか』
「え? 準備はこれだけ? こう、回復薬とかないの?」
『クスクス。遠出するわけではないので、それだけで十分ですよ』
簡単すぎる気がするが、まだお試し期間だ。大丈夫であろう。
◇
ログハウスから庭に出た。そのまま直進する。
柵があるので跨いで外に出た。
分かる、空気が変わった……。そして、森を見渡した。
『それ』を見て、一瞬で汗が噴き出して来た。
「なんだあれ? 三メートルくらいの身長に緑の肌? 角?」
『落ち着ていください。あれは、オーガウォーリアです。鬼と言えば伝わりますか?』
眼が合ってしまった。膝がガタガタと笑う。
次の瞬間に斧が飛んで来た。オーガウォーリアが斧を投擲したのだ。
「うわ!?」
反射で頭を抱え込む。だけど、避けられないであろう。次の瞬間に僕は真っ二つになる……。
目を瞑って痛みに備えた時であった。
──ガン、ガン、……ザク
腕に何かが当たったことだけは分かった。
恐る恐る後ろを振り返る。斧が地面に刺さっていた。
自分の右手を見ると、何かが当たった部分から煙が出ているが、怪我はなかった。
「これが八卦衣の効果?」
『向かってきますよ! 前を向いてください!!』
サクラさんの一言で我に返る。オーガウォーリアは目の前に迫っていた。慌てて、弓に矢をつがえる。
無我夢中であった。僕に弓矢の知識などない。でも、体が自然に動いた。
そして、矢が放たれた。適当に引いた弓の矢である。目の前に落ちると思ったのだが、矢はすごい勢いで飛んで行った。
オーガウォーリアは、震天箭を腕で払おうとした。だが、次の瞬間にオーガウォーリアの右腕が消し飛んだ。そして、転がって行く。
震天箭が通った跡は、竜巻が通り過ぎたかのように森を薙ぎ倒して行っていた。
だけど、僕は冷静にその光景を見ていた。
「使い方が分かる……」
震天箭を戻そうと思ったら、瞬時に手元に現れた。多分、テレポート機能が付いている。
そして、今度は狙いを定めてもう一度弓を引く。
次の瞬間に、オーガウォーリアは、腹に穴を空けていた。
その後、オーガウォーリアの体は、塵の様に崩れ落ちた。
◇
「はあ、はあ……」
『討伐完了です。すごいですね。ほとんど指示を出していないのにオーガウォーリアを倒すなんて』
「無我夢中でした……」
『とりあえず、一度戻りましょう。不意打ちされると困るので。それと、戦利品が落ちています。ドロップアイテムですね。鎖と石を拾っておいてください』
言われるがまま、指示された物を拾い、柵を乗り越える。斧は……良いか。こんなに大きい物は使えそうにない。
柵を乗り越えると、矢が飛んで来た。だけど、柵の前で落ちる。他にも魔物がいたか。
「……もしかすると、この柵の中は安全地帯?」
『段々と分かって来たみたいですね。そうです、魔物はこの柵の内側には入れません。攻撃も届きません。
魔物の力の根幹となる〈魔素〉を遮断する結界を張っています。〈符陣〉と言って、呪符で覆われた内部に効果を発揮します。
それと、今のところ、優莉さんが認めた人以外は、この符陣内には入れない仕様となっています』
魔素と符陣か。多分だが、符陣の効果が攻撃にも防御にもなるのだろう。
だけど、今は混乱しているので、後で聞くことにする。とりあえず、汗を拭う。
『あちらに井戸があります。いえ、今日は湧水を飲みましょうか』
指示されるまま、水場に移動した。手で水を掬って飲んでみる。
「ふぅ~」
なんとか落ち着いた。
『今飲んだのは、〈精神を安定させる湧水〉です。落ち着きましたか?」
崩れ落ちた。後から言わないで欲しい。
飲んで良い水かも分からなかったじゃないか……。