第44話 混乱3
僕は空を飛び、再びアンネリーゼさんの元へ向かうことにした。
今は、九竜神火罩を大きくして、モニカさんとシノンさんを運んでもいる。
今のこの異世界には飛行技術がない。そうなると、初めて空を飛んだ人になるのだろうか?
いや、祖母がなにかしらしていそうだ。
まあ、二人は始めて空を飛んだのである。楽しんでくれれば言うことはない。
ログハウスを越えて、森の中心部まで移動する。
もうすぐ街道が見えてくるはずだった。
ここで空飛ぶ魔物と思われる者達に囲まれた。急停止する。
僕達を囲んで来たのは、手が翼のハービーを思わせる姿だった。いや、ハルペイヤ?
鳥族が、人に擬態しているのだろうか?
でも、おかしいな。レオンさんには、数日前に侵入の許可を貰っているのだが……。
「数日前に来た、優未の孫の優莉です。レオンさんとアンネリーゼさんに会いに来ました」
数秒の沈黙……。
「驚かせてしまい、失礼しました。話は聞いております。ご案内いたしますので着いて来てください」
話を聞くと、彼らは警備兵なのだそうだ。
先日は、レオンさんの指示で出てこなかったらしい。
これが、本来のこの街の姿なのだろう。無防備ではないと言うことか。
そのまま囲まれて進んで行く。
広場の中央で降りるように促された。
そこには、レオンさんとアンネリーゼさんが来てくれていた。
モニカさんとシノンさんが駆け寄って抱き合う。
僕は、レオンさんに挨拶だ。
「こんにちは、レオンさん。少ないですがお酒を持ってきました。
品種は選べなかったので、御祈祷酒で我慢してください」
「良く来てくれたな。人族の街の様子は聞いている。
アンネリーゼも心配していたのだ。でも良くぞ、その二人を保護してくれた。
それと、良く酒を待って来てくれた! これで複製出来る! いや~日本酒か~、楽しみだ!」
何と言うか、ここが理想郷のような気がしてきた。
祖母と、祖母の先生は、このような世界を目指していたのではないだろうか?
多分だが、ダルクの街も初期は、こんな雰囲気だったのだと思う。
しかし、年月が過ぎて、領主が交代すると変わって行ってしまったのだろう。
最終的には、襲撃とかしていたし……。
その後、お城みたいな建物で歓迎を受けた。
◇
「なるほどな、神樹がヘソを曲げたのか……」
レオンさんに経緯を説明した。
「僕には、その辺が理解出来ないのです。 アンネリーゼさんは、長い間待遇が良くなかったと聞きました。王都から離れた、もしくは、ダルクの街に入れなかっただけで、神樹がなにかし始めたのですか?」
「それは、俺にも分からんよ。でも、神樹は怒っているみたいだ。人族の土地は、乾いて来ている。
そのうち天災が起きるだろうな」
「アンネリーゼさんを帰せば、元に戻りますか?」
レオンさんが、アンネリーゼさんを見た。
アンネリーゼさんが、首を横に振る。
「私が戻っても無理ですね。神樹は、今の人族の体制に見切りを付けました。
私以外に神樹と会話出来る者が現れるまで、天災は続くでしょう……」
「新しい王族が生まれると言うことですか?」
「そうかもしれませんし、神樹の声を聴ける人が現れて巫女として祭り上げられるのかもしれません。神樹が誰を選ぶのかで決まります……」
ここで、モニカさんが口を開いた。
「アンネリーゼ様。今の話を国王様と国民にするべきです。
そうすれば、天災の期間も短くなるのではないでしょうか?」
アンネリーゼさんが俯く。
「そもそもの原因は、私がレオン様に保護を求めたからです。
もう、木々の精霊も私から離れて行ってます。
代わりに、私は金属性の巫女になりそうです……」
良く分からないが、アンネリーゼさんが何処に落ち着くかで、〈根源なる者〉の恩恵が決まるのだな。
そして、これからはレオンさんが支配している街が発展を遂げることが決まったと。
人族には、同情出来ない。
自分達の犯した過ちだ。
僕も、ダルクの街にアンネリーゼさんを引き渡すつもりはないし。
そうなると、後は……。
「モニカさんとシノンさんは、今後どうしますか?」
二人が顔を合わせる。
「私達も、居場所がありません。出来ればアンネリーゼ様と一緒に過ごさせて欲しいです」
今度は、レオンさんを見る。
「ん? 構わんぞ。俺は来るもの拒まずだからな。待遇も保証するし、仕事も与えよう。いや、二人は俺の知らない知識を持っていそうだから、新しい娯楽を提供して欲しいかな。
アンネリーゼと三人で、何か考えて貰うのが良いだろう」
レオンさんが笑うと、モニカさんとシノンさんも笑い出した。
器が大きいな。
レオンさんだからこそ、街をここまで大きく出来たのであろう。
今後は、ダルクの街よりも、この街に来たいと思えた。