第42話 混乱1
朝起きて何時ものように、身支度を整える。
サイオン製作へ行き、今日もデバック作業だ。
一人で作業する仕事は、僕に合っている。集中しているとすぐに十二時になった。
挨拶をして、帰路に着く。今日は急いで帰った。
そして、そのまま異世界へ。
今日は急いで、ダルクの街へ行く予定だ。
モニカさんとシノンさんに、アンネリーゼさんの連絡をするためだ。
◇
ダルクの街は、とりあえず平穏だった。
城門前で降りて、門を通過する。飛んで城門を越えても良いのだが、今は止めておく。
兵士の人達は、僕を見ると一瞬硬直するが、そのまま通してくれた。
そういえば、この世界には身分証という制度はないのだな……。
前回モニカさんが働いていた建物に向かう。
すると、誰かが僕に向かって走って来た。
その人は息を切らせて、僕の前で止まった。この娘は知っている。
「……こんにちは、シノンさんでしたよね?」
「はあ、はあ。こ、こんにちは……」
その後、シノンさんに連れられて、知らない建物に入った。
多少の人はいるので、公共スペースなのだと思われる。
部屋を借りて、シノンさんの護衛二人と共に、四人でテーブルを囲んだ。
「え~と。まず、アンネリーゼさんのことから説明させてください」
「はい。お願いします」
「アンネリーゼさんは神樹の導きがあり、大森林の中にある魔物の街で保護して貰うことになりました」
「え!? 魔物の街?」
驚いている、まあ、それはそうか。
「もう少し詳しくお願いします」
「アンネリーゼさんは、神樹なのか精霊なのかは分かりませんが、森の木々や植物と意思を通わせることが出来るみたいです。
それは、皆さんの方が知っていると思います。
それで、僕が保護するよりも良い場所があるとのことなので、そちらに移って貰いました」
「それが、魔物の街?」
「過去に祖母の壱岐優未と縁のあった魔物が、進化したらしいのです。金属性の〈根源なる者〉と名乗っていました。
それは、アンネリーゼさんも確認しています。
少し話しをしたのですが、秩序と法律を守っていました。
それで、アンネリーゼさんの希望もあり、移住して貰うことにしました」
「魔物が、秩序と法律……」
「進化したと言っていました。知性は人族以上かもしれませんね」
「……攻めて来られる心配はないですか?」
「もう〈恩恵〉は、必要ないと言っていたので大丈夫だと思います。
祖母の優未がやりすぎたのかもしれません」
シノンさんは考え出した。
まあ、いきなりこんな話をしても信じて貰えないであろう。
ここで、モニカさんが来た。
面倒だが、同じ話を繰り返す。
◇
「……にわかには信じられませんね。優莉さんの家で匿っていない証拠を出してください!」
なんだろう? モニカさんは、怒っている気がする。
しかし、証拠と言われてもな……。
「三日後で良ければ、魔物の街に案内します。
一応、僕は受け入れて貰えることになっていますので」
「分かりました。私達を連れて行ってください」
「一人だけしか連れて行けませんよ? それも抱えてですけど……」
ここで、モニカさんとシノンさんが言い合いを始めた。
僕は、一人しか運べない。う~ん、宝物庫を探して、複数人輸送出来る方法でも考えるかな。
長くなりそうなので、三日以内に決めて貰うことにした。
それと、ダルクの街の現状を聞いてみた。
まず、アンネリーゼさんの護衛は、王都に帰ったとのこと。まあ、賢明だな。
今は、シノンさんが領主代理として行政を取り仕切っている。補佐でモニカさんだ。
合議制を取り、意見を広く集めているのだとか。
畑の収穫はまだ先なので、とにかく協力し合って餓死者を出さないようにしているらしい。
かなり貧しい街になってしまったが、畑の収穫さえ出来れば、持ち直せるとのこと。
大丈夫そうかな? それと、疑問に思っていたことを聞いてみるか。
「神樹の〈恩恵〉ってなんですか?」
二人が黙ってしまった。
少し間をおいて、シノンさんが答える。
「明確には言えません。ただし、神樹がなくなると大地が枯れます。
そうですね。木々が枯れて、水が出なくなり、動植物がいなくなります」
生活しずらい土地になるのか。いや、各種族が生活しやすい土地に改良するのが、〈恩恵〉なのだと考えよう。
問題なのは、その度合いなのだろうな。雨が降らない等の天災が起きた時に、他種族を襲うことによって自分達に都合の良い土地に改良を行う……。
わずかな言葉からの推論になるが、調べてみるのも良いだろう。
その後、少し雑談をして帰路についた。
◇
異世界での用事は、短時間で終わったので、祖母の家に戻って来た。
今日は時間が少し余ったので、僕は近くの神社にお祓いをお願いしに行くことにした。
祈祷料は、今の僕の金銭感覚では懐に少し痛かったが、御祈祷酒を頂くことが出来た。レオンさんへのお土産は、これで良いだろう。
お酒の入手方法……、未成年の僕には結構難しい。方法はなくもないんだけど……。
祖母の家に帰って来ると、軽トラックが止まっていた。
引っ越し業者が、実家に置いて来た僕の荷物を届けに来てくれたみたいだ。
少しタイミングがズレていたら、無駄足を踏ませることになったな。運が良かった。
段ボール十箱を運んで貰い、サインして帰って貰う。
段ボール箱を開けると、思わぬ物が入っていた。
祖母の家の権利書だ。父は、本当にこの家を僕に譲ってくれたのだな。
まあ、縁切りとも言えるが。
バイトも順調だし、収入源もある。資金もまだ十分にある。
衣食住の保証。いや自立か。まだ、三週間程度だが充実している気がする。
片づけていると、麗華さんが来てくれた。
「こんばんは。麗華さん」
麗華さんは、何時もの笑顔だ。
僕はこの瞬間が、一番の幸せを感じる。