第36話 王女様3
『サクラさん。この王女様の護衛は、信頼出来ますか?』
『う~ん。密偵が混じっていますね……。ログハウスの場所を突き止めようとしています。
まあ、場所を特定されても絶対に入れませんけどね』
最悪だな。
こうなると選択肢はないか。
「王女様だけ、僕が保護します。残りの人達は、ダルクに帰ってください」
ここで、モニカさんが反論して来た。
「待ってください。せめて私だけでも連れて行ってください」
僕は、モニカさんにも疑いを持っている。
自覚はなくても、精神魔法とかがかけられていそうだ。
今は、極力リスクを減らしたい。
「モニカさんは、ダルクに必要な人ですよ。シノンさんと共に復興に尽力してください」
「っ……」
それだけ言って、王女様を抱えて飛び立った。
護衛が何か騒いでいるが、聞く気はない。
かなり強引だが、今考えられる最良の選択肢を取ることにした。
少し距離を取って、森の途中で降ろす。気になることがあったからだ。
これからすることは、護衛達には見せられない。
『サクラさん。この王女様に何か魔法はかけられていますか? いえ、デバフ効果全般と聞いた方が良いかもしれませんね』
『麗華さんの時と同じになりますが、今後は、名前で呼んであげてくださいね。
特にこの娘は、外界と遮断された世界で生きて来ました。
なるべく打ち解ける感じで接してあげてください。まあ、社交性はあるので大丈夫でしょうが。
それと、呪いを受けていますね。聖水を頭からかけてあげてください」
孤独に生きて来たのかな……。友人になれれば良いな。
まあ、先のことだ。今すべきことを終わらせてしまおう。
ストアより聖水を購入する。
「少し我慢してください」
「……はい」
祈るようなポーズで動かない、アンネリーゼさん。
僕は、頭から聖水をかけた。
彼女の背中から、煙のようなものが出た。これが呪いなのかな? 効果は分からない。
それと、護身用の短剣だ。激しく聖水と反応している。
「痛みはありますか? それとその短剣は置いて行った方が良いですね」
「……痛みは、我慢出来ます。ですが、短剣は形見なので捨てられません」
酷いことをする。大切な物なのに呪いをかけたのか。
少し思案する。
『サクラさん。聖水だと短剣を壊してしまいそうなのですけど、何か良いアイディアはありませんか?』
『一番良いのは、術者の殺害ですね』
それは、良くないだろう。速いの間違いだろうに。
『マジックバッグに入れておけば、とりあえず呪いも効力を発揮しませんよね?』
『追跡魔法ではないので、持たせておいて大丈夫ですよ。 彼女の生存を遠くから確認するだけの呪いなので』
大丈夫かな? 怖い呪いではないのか。
とりあえず、今はサクラさんを信じるしかない。
「それでは、行きましょう。僕の家に案内します。しばらくはそこで過ごしてください」
アンネリーゼさんは、少し躊躇ったが、最終的には頷いてくれた。
こうして、アンネリーゼさんをログハウスに案内した。
◇
『サクラさん。マジックバッグの予備はありますか?』
『宝物庫に予備はありますよ。でも、あなた以外には使えません。〈称号:道士〉が関係しています』
ダメか。魔導具は持たせられないな。
保護したのは良いが、最終的にどうすべきかは決めていない。
麗華さんが来るまで、しばらく時間があるので、ログハウス内を案内した。
宝物庫以外は入られても問題はない。今は宝物庫にカギをかけているので、入れないし。
アンネリーゼさんは、とても興味深そうにログハウスを散策していた。
やはり、物珍しいのだろう。
「アンネリーゼさんは、料理は出来ますか?」
「……出来ません。読書以外何もさせて貰えなかったので」
ストアで、お弁当〈松〉を買う。それと、女性用の洋服一式もだ。
しかし、本当にドレスで生活する人がいるのだな。どんな生活をしているのだろうか?
そして、スプーンでご飯を食べ始めた。異国の食事は、分かるのか……。お弁当は日本由来の形なのだが。
洋服の着方は分かるとのことなので、着替えて楽にして貰うことにした。
ここで、麗華さんが来る時間が迫っていた。
「僕は、数時間出かけてきます。戻って来たら今後どうすべきか話し合いましょう」
「分かりました。他に頼れる人もおりません。ユーリさん。どうか助けてください」
頭を下げて来た。この辺も僕の貴族のイメージとは異なる。
とりあえず、僕は桜の樹を触って、元の世界に戻って行った。