第28話 城塞都市ダルク5
しばらく待つと、モニカさんが部屋から出て来た。
だけど深刻そうな顔である。
いや、モニカさんだけではない。部屋から出て来た人全員真顔だ。
トラブルでもあったのだろうか?
ここで、視線が合った。モニカさんが、駆け寄って来てくれた。
「ユーリさん。来てくれたのですね」
「植物の生育状況の確認をしに来たのですが、何かありましたか?」
モニカさんが、周囲をキョロキョロと見渡して、小声で答えてくれた。
「次期領主が決まったんです……」
話だけでも聞いた方が良いかな?
◇
別室に案内されて、お茶を入れて貰う。
今は、モニカさんと二人きりだ。
「次期領主は、どんな人なんですか?」
「王女様になります。王位継承権五位の方だったのですけど、政争に敗れてダルクに来ることになったみたいなんです」
ふむ? 王族か……。まあ、元の世界にもいたけど、この世界の王族は中世を想像すれば良いかな?
『夢がないですね~。異世界のお姫様と恋愛したいとは思わないのですか?
テンプレですよ。転移者とお姫様の禁断の恋』
サクラさんから意味不明な突っ込みが来た。でも今は無視する。
「問題のある人なんですか?」
「……人柄は問題ありません。少し天然が入っているくらいです。
それと、シノンさんと親友の関係にあります。補佐として、シノンさんだけは戻って来るそうです」
前言撤回。王族に対して『天然が入っている』とか言える時点で、僕の知識にはない世界観なのだろう。それと、シノンさんは戻って来るのか。荒事が起きなければ良いのだが。
「どうして、皆深刻そうな顔をしていたのですか?」
モニカさんが、視線を逸らす。 言い辛いことみたいだ。
「……ここだけの話。王族に政治は期待出来ません。国を運営しているのは、大臣以下の臣民なのです。
言ってしまえば、『お飾り』の人なんです。
でも、神樹の世話は、王族しか出来ないので追放も出来ません」
「神樹の世話? もう少し詳しく」
「以前は定期的にダルクに訪れていて、神樹の声を聞いていました。『神託』とも呼ばれています。
これは、限られた人にしか出来ません」
僕が、サクラさんと意思疎通しているようなものかな?
それと、話から推測するに、血筋が関係していそうだな。
「今聞いた話だと、問題なさそうですけど?」
「……行政官として、誰が来るかで大きく生活が変わってしまうのです。
前も言いましたが、今のダルクは最盛期の半分の人口しかいません。
ユーリさんのおかげで作物が育ち始めましたが、収穫はまだ先です。生活はギリギリなんです。
どんな政策を出してくるかで、皆戦々恐々としている状況です……」
そうか、現状でもかなりギリギリの生活であり、収穫はまだ先。
天然入った王族が来て、行政官は誰になるかも分からない。
唯一の救いは、元領主の娘のシノンさんくらいか。
「考えていてもしょうがないのではないですか?
実際に来てからでないと判断出来ないと思うのですが……」
「それでは、遅すぎるんです。
前回は、『鉱脈を探せ』で三年間駆り出されました。そして、見つからなかったのです。
事前に、自分達の行いたい産業を明示しないと、どんな命令をされるか……」
専制政治というやつかな? そして、モニカさん達は土地に合った産業を行いたいのか。
僕は、この世界を良く知らない。政治も詳しくない。
「それで、モニカさん達の希望は決まったのですか?」
「やはり、食糧生産を第一にしたいとの意見で纏まりました。
だけど、他の街と比べると、見劣りしてしまい……」
見劣りね……。何か新しい産業を求められそうと言うことか。
う~ん。僕に手伝えることはないかな。
ここで、サクラさんから突っ込みが来た。
『まったく! 何時もあなたは他人ごとに深く関わり合おうとしない!
せっかく力を得たと言うのに! なぜ、モニカさんを助けようと思えないのですか!
こんなに可愛い子が、助けを求めていると言うのに!!』
ここで気が付く。僕は、モニカさんと普通に話していた。
対人恐怖症と診断を受けて、出来るだけ人目を避けていた、僕がだ。
ステータスによる変化なのだろうか? もしくは、レベル?
前々から、自分の変化には気が付いていた。だけど、今の状況はかなりおかしい。
原因は良く分からない。魔導具かもしれないし。
ただし、僕は変わり続けていることだけは気が付いている……。
呑まれないように気を付けないとな。
『ストアから何か買えば良いですか? それとも、元の世界から何か持ってきますか?』
『何でも良いですけど、不自然にならないようにしてください。
オーバーテクノロジーなど論外ですからね』
オーバーテクノロジーね。
万農薬は良かったのだろうか?
そうなると、家畜でも連れて来ようかな?