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第2話 祖母の家

 僕の名前は、二階堂優莉(にかいどうゆうり)

 女性みたいな名前だが、男性であり十八歳の絶賛無職のフリーターだ。

 母方の祖母の家を貰い、見知らぬ土地で今後を過ごすことになった。

 まあ、体よく追い出されたと言えば簡単かもしれない。


 祖母の家は、昭和の建築を思わせる建物であった。雨戸を開けて、換気を行う。

 平屋建ての3LDK。結構広い。


「畳は……大丈夫そうか」


 最悪全面張替えも必要かと思ったが、特に傷んではいなかった。

 その後、全ての部屋を回り調べたのだが、住むのには何の問題もなかった。

 蜘蛛の巣さえ張っていなかったのだ。

 十年間放置された家とは思えなかった。


「とりあえず、庭を手入れして、箒で埃を払うか……」


 独り言をつぶやいた時であった。


「すいませ~ん。どなたかおりませんか?」


 間違いなく玄関からの声であった。慌てて玄関に駆け寄る。


「はい、どちら様でしょうか?」


「近くの工務店の者です。本日からお住まいになられると言うことで、電気とガスの点検に来ました」


 ああ、そうか。父親が手配してくれたのだな。

 その後、問題ないと言うことで、契約書にサインして帰って貰った。

 あと必要なことは、住民票の登録と水道の手続きと言うことで、すぐに市役所に行き手続きを行う。

 平日だったこともあり、即日使えるようにしてくれた。

 ここで通帳の残高を見たのだが、十万円が入っていた。

 僕個人の貯金は六万円。とりあえず、二ヵ月くらいは生活出来るであろう。その間にバイト先を探せば良い。

 自立したいと言うのが本音だ。バイト先が決まったら、スマホの支払いも自分の通帳から引き落とすように変更しようと思う。

 近所のスーパーで食材を買って、自炊してその日は就寝することにした。

 ちなみに、鍋とプライパン、包丁は残されていた。それも錆びずに……。





 新居に移って初めての朝。雨戸を開けた。そして、パン一個と牛乳で朝食とした。

 まず、庭の草むしりからだ。一時間で玄関までの道を作った。これで、とりあえずは、人が住んでいることが分かるであろう。

 その後、体を拭いて街の散策に出かけることにした。


「近くにコンビニもあるし、駅に近づくにつれて飲食店も多い。田舎だと思っていたが、それほど不便はないかな……。

 あと、本屋と古本屋があるのは助かるな」


 僕の唯一の趣味は、立ち読みだ。スマホで見れば良いのかもしれないが、紙の媒体で読んだ方が心が落ち着く。

 生活するのには、問題なさそうな街である。

 駅前の商店街まで着いた。ここまで来れば、飲食店も多い。

 そんなことを考えている時であった。


「離してください!!」


 声の方向を見る。若い女性が、二人の男性に囲まれていた。

 ナンパなのかな? 困っていそうだ。だけど、階段の踊り場で言い争うのは危ないと思うのだが……。

 助けに入るか? かなり怖いけど……。

 迷いながら見ていると、建物の二階から店員が出て来た。


「っち!」


 男性が、乱暴に女性の手を離した。女性は体勢を崩して階段を踏み外す。


「危ない!」


 反射的に、女性の落下地点に駆け寄った。女性は、階段で一度バウンドして僕の腹に落ちて来た。

 そして、意識不明だ。

 男性二人は、すぐに逃走。いや、今はどうでも良い。

 僕は、女性をそっと寝かせた。そして、すぐにスマホで救急車を呼んだ。

 人の輪が出来る。注目されている……。

 コミュ障の僕には、人の目が耐えられなかった。いや、醜い顔を見られたくないのが本音だ。帽子を深く被る。

 救急車が来て、状況説明を求められたのだが、コミュ障の僕は説明がチグハグだ……。

 だけど、店員さんが説明してくれたので、事なきを得る。

 女性が救急車で運ばれるのを見送って帰ろうとした時であった。


「服に血が付いてますよ。いえ、破けています。大丈夫ですか?」


 自分の体を確認するとお尻が破けており、下着が見えていた……。


「すいません。お見苦しいところを」


「何を言っているのですか? あなたが助けなければ、大事故でしたよ」


 気恥ずかしかったので、一礼してその場を後にする。

 家に帰ろうとして、少し歩いた時であった。

 前後を塞がれたのだ。そう、さっきの男性二人組だ。

 そして、無言で殴られる。


「てめぇのせいで、ナンパが失敗したじゃねえか。ブサイクが!」


 うずくまっているところに、さらに腹を蹴られる。

 胃液が逆流して来た。


「いいか! 警察にチクったら、ただじゃおかないからな!!」


 そう言って、男性二人は去って行った。

 もう、令和だと言うのに、こんな人種が残されていたのか……。

 店の前だったのだ。防犯カメラにも映っているだろうに。逮捕されるかどうかは、あの女性次第だろうな。

 僕よりも頭の悪そうな二人の男性を残念に思った。

 そして、体を引きずるようにして家に入った。





「痛てて……」


 顔を殴られて出血していたので、絆創膏を張った。

 絆創膏は、家で出血が止まるのを待って、着替えてコンビニで買いに行ったのだ。

 本当に無駄な出費である。

 そして、鏡を見る。自分でも眼を背けたくなる醜い男が写っていた……。


「何してるんだろう……」


 醜い顔に、絆創膏が張られてさらに酷くなっていた。瘤も出来ている。

 体中も痛い。

 涙が出て来た……。洗面台を抱えて、少し泣いた。


 今日は、コンビニで買った食事で夕飯を済ませた。ちなみに昼食は抜いている。


「ハローワークは、怪我が治ってからだな」


 自分自身に言い訳をする。本音を言うと行きたくなかった。

 その日は、スマホでニュースを見ながら体を休めて、就寝した。


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