また会えて、本当に嬉しいの
屋敷に帰ると、既にフォルクとスティカは帰ってきていたようで使用人達が慌てた様子で働いていた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。父さん達は?」
「既に夕食の席についておられます。サミュエル様も、お早く御支度をなさってください」
「ああ。それと、彼女もいるから」
「存じ上げております。既に料理長には手配済みです」
「そう、ありがとう」
「いえ」
出迎えてくれたのは、どうやら執事のようだ。
どこかで会ったことがあるような顔をしている……
あのひげをこうして、ああして……そうだ、ケイバーだ!
過去にこの家で仕えてくれていた執事、ケイバーに良く似ているんだ。
私自身は、自分の疑問が解決して満足していたのだけど、じっと見つめられていた彼はそうではないらしい。
「あの……」
「え、あ、ごめんなさい」
戸惑った様子の彼に謝ると、「いえ、大丈夫です」と背を伸ばした。
それがどこか初々しくて彼がまだ、最近執事になったのだと気づいた。
「サミュエル様は間も無くこちらに戻られると思いますので」
「ええ、ありがとうございます」
玄関ホールと食堂への通路の間にある待合室に彼は私を案内すると去っていった。
そして、5分もしないうちにサミュエルが入ってくる。
「ごめんね、優里亜」
先ほどまでのラフな服装とはまた違った服装。
髪型も少しセットされており、街中にいる青年から少しいいところの坊ちゃんといった感じだ。
「いいえ、対して待っていないわ」
「それはよかった」
「ところで、玄関ホールの執事……彼は?」
「シュトライヒのこと?もしかして、ああいうのが好みなの?」
「ち、違うわ!ケイバーに似ていると思っただけよ!!」
サミュエルの言葉を即座に否定する。
彼の顔は悪くないと思うけれど、私の好みはあの人だけだ。
「なんだ。よかった。シュトライヒがケイバーさんに似てるのは当たり前だと思うよ。彼の子だし」
「そうだったの。2代に渡ってうちに仕えてくれているなんてありがたいわね……」
「そうだね。じゃあ、父さん達のところに行こうか」
「ええ」
サミュエルからすれば、ただのからかいなんだろうけど、少し助かった。
フォルクとスティカに会うのは、やはり緊張していたから今の会話で落ち着くことができたんだもの。
「父さん、母さん、入るよ」
「ああ、遅かったじゃないか。その人が例の恋人か?」
「そう。結婚も考えてる」
フォルク……少し老けたわね。でも、貫禄がついた。
スティカはあまり変わってない……本当に美魔女と呼ばれる人たちみたい。どうやってるのかしら??
「ようやくサミュエルにも恋人が出来たのね。あの方のような人が理想っていうから、老体に鞭打って頑張って子どもを産むか、養子でもとらないとダメかと思っていたわ」
「か、母さん……」
え、サミュエル、理想の女性がいたの?
偽りとはいえ、私と婚約なんてして大丈夫なのかしら……?
スティカの言葉に、驚きつつも思った以上に歓迎されているようだ。
「初めまして、優里亜です」
「優里亜……懐かしい響きだ」
「本当に」
名乗ると、2人は目を細めてユリアを思い出したのだろう、懐かしそうに私を見つめる。
ああ、2人とも、久しぶりと言えたらどれほどいいか。
「ほら、2人とも、優里亜が戸惑ってる」
「ああ、そうね。私はスティカ・アウル・カーター。サミュエルの母よ。これからよろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「フォルク・カーターだ。サミュエルをよろしく頼む」
「私の方こそ、お世話になります」
女性は結婚すると男性の家に嫁ぐけれど、家族としての絆が切れるわけではないと言う証に、自分のミドルネームに嫁ぐ前の旧姓をつける。
私がユリアだった時はマルクス家、スティカはアウル家と言うようにだ。
でも、今の私は……もし、誰かに嫁いだらどうなるんだろう?
この世界でも、日本の両親の姓を名乗っていいのだろうか?
そんな風にふと考え、目の前の2人が親愛の握手の為に手を出しているのに気付くのが遅れた。
慌てて、手を差し出す。
若々しかった手が、乾燥してカサついている。
顔には出ない苦労が、手に出ていることに気がついて少し泣きそうになる。
それに気がついたのか、サミュエルがさっとフォローに入ってくれた。
「もういいだろう?ご飯にしようよ。俺、お腹空いた」
彼は私を座らせると、その隣に座り、その様子を見てフォルクとスティカがその向かいに座った。